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連理の枝・・・1

シンは焼けただれた大地と向き合い、しばらくそこに佇んでいた。
日は既に西に傾き、空の片隅に茜色に染まった綿菓子のような雲がゆうゆうと流れていく。死者まで出した大きな事故がほんの1カ月前に此処であったなんて信じられないくらい静かだった。シンはパクの言葉を繰り返して呟いていた。

『運命だったんだ・・・・』

これほど残酷な言葉があるだろうか。
人は誰でも自分の出来る事を最大限に発揮し、その日その日を精一杯に生きている。例えそうだと認識しなくても・・・・・
『生きる』という事がどんなに大変でも、この世に生まれたからにはそれなりの『意味』があり、『使命』を持って生れて来た筈だ。しかし、その輝ける命が何の前触れもなく絶たれることを『運命』だからと諦めるにはあまりにも心の痛みが大き過ぎる。
『なぜ』
『どうして』
『あの人だけが』
そう誰もが思うのは当たり前のこと。
『もし』
『あの時』
『あそこへ行かなかったら』
そう誰もが思うことも当り前のこと。
すべてが『運命』で済まされるにはどうしても納得がいかなかった。シンは杖に体重を掛けて片足を曲げ、焼け焦げた臭いの残る黒っぽい土を手に取った。
「運命が親父さんをさらって行ってしまった。残された俺は・・・・俺は・・・・・」
夕日に土を掴んだ手をかざしてみる。サラサラと音を立ててシンの手から零れる土は穏やかな風と共に再び大地に戻っていく。
「イ・グループが工事を始める前にきちんとリサーチしていればこんな事にはならなかったのかもしれない・・・・・これは人災・・・だ。」
シンは再び手を握り締めると、空に向かってその手を突きあげた。
「俺は後継者になる。そして同じ過ちは二度としない。」
突きあげた拳を胸に降ろすと静かに頭を垂れた。








ランチだけのつもりがすっかり遅くなってしまい、辺りは夜の帳が既に降りはじめている。
ナヨンの車で近くのスーパーまで送ってもらったチェギョンは、そこで買い物を済ませ、いつものように坂道を上がって行く。
シンが待っているからと、いつもは気持ちが急くように上る坂も、今日は足取りが重く、このまま家に着かなければいいと何度も思った。しかし、あっという間についた自分の家。じっとそこで佇みもう一周して来ようとくるっと向きを変えた時だった。
「チェギョン・・・・どこへ行く?」
「シン君!」
松葉つえをついたシンが玄関先から出て来た。
「遅かったから心配した。夕飯、俺が作ったんだ・・・っていってもキムチチゲだけどな。冷蔵庫のもの適当に使ったよ。」
シンはチェギョンが両手に抱えている買い物袋を受け取ると何もなかったように微笑んだ。
「・・・う、うん。」
リビングのテーブルの上に用意された鍋の湯気がもうもうと立ち上っていかにも美味しそうだ。
チェギョンはバックを片づけて着替えると、リビングに戻って、テーブルの前に座った。鍋にスッカラを入れて一口すくうと乾いた口の中に流し込む。
「どうだ?」
意見を求めるシンの顔がチェギョンの目の前に迫ってくる。
「うん・・・美味しいよ。」
チェギョンはシンを見上げて笑った。
「そうか?良かった・・・」
シンはチェギョンの顎に手をやると唇に軽くキスをした。
「御馳走様。チェギョンの前菜だな。」
チェギョンの手にあるスッカラを取るとシンも味見をして満足そうに頷く。
「ね、シン君・・・・・」
「何?」
「う、ううん…何でもない。これホントに美味しいね。」
「だろ?」

『ユルさんは御曹司なのよ。あのイ・グローバルグループの。恋人の品定めもするのかも知れない』

もし、もしシン君があのおじいさんの孫だったら・・・・・
後継者を決めるテストをしているんだったら・・・・
きっと私なんてお相手の基準以下だわ。倒産して夜逃げ同然の両親。奨学金をもらって漸く大学に通っている貧乏な私。
だから・・・・・
シン君の家柄に相応しくないから、本当の事言ってくれないのね。簡単に別れられるように、自分の身分を伏せているのね。私はシン君の何?私の事好きだって言ってくれたのにどうして?遊びなの?
鍋を見つめるチェギョンの瞳が大きく揺らめきポロっと涙が零れた。
「チェギョン?どうした?」
鍋の湯気の向こうで涙を流すチェギョンにシンは驚いた。
「・・・・・」
「チェギョン・・・・?」
「湯気が目に滲みたのよ。何でもない。」
「・・・・・・」
シンはチェギョンの隣ににじり寄った。
「おい、湯気なんかじゃないだろ?」
「・・・・・」
「チェギョン。」
チェギョンはいきなり立ち上がるとキッチンに向かった。
「な、何でもないから大丈夫だから・・・・・・・」
泣かないつもりなのに涙が止まらない。口元に当てた手の甲から嗚咽が漏れた。
「チェギョン・・・・」
杖を支えに立ち上がったシンは、肩を震わして泣いているチェギョンの傍に静かに佇んだ。抱きしめてくれと言わんばかりに震える其の肩はか細く、頼りない。彼女の肩に置いた手に力を込めるとくるっと彼女の軀を回す。零れる涙が止まらず、チェギョンはシンに顔を見られたくなくて下を向いた。
「ご、ごめん、シン君・・・・パパ・・・・パパ達の事、思い出しちゃった。」
咄嗟にチェギョンは嘘をついた。
「・・・・・チェギョン。」
「鍋料理・・・ここにパパ達もいてくれたらって・・・・・つい・・ごめんね。せっかくシン君が作ってくれたのに。」
無理して笑おうとする彼女の髪にシンは片手を伸ばした。肩に掛かる髪を持ち上げ、嗚咽を漏らす彼女の頭を引き寄せると、その唇にそっと自分の唇を寄せていく。
「チェギョン・・・・・泣くな。」
チェギョンはコクンコクンと頷きながらも、喉の奥が未だに小さく叫んでる。シンは唇を離すと、チェギョンの頭を抱えて胸に抱き、その背中に手を回すとトントンと叩いた。







いつもベットに横になるシンだったが、その夜はチェギョンの傍に布団を敷いて横になった。右足のギブスが忌々しかったが、それでもシンはチェギョンが辛くないようにと、時折髪を撫ぜては話しかけていた。
「な、お前の両親はきっとどこかで元気で暮らしてる。」
「うん・・・」
「鍋をやるたびに泣いてたら、塩っぱい鍋になっちゃうぞ。」
「・・・・・・」
「このギブスが外れたら、一緒に探しに行こう。」
「えっ?」
「チェギョンのご両親には挨拶しておかないとな。チェギョンの恋人ですって・・・交際を許して下さいって・・・・」
「・・・・・」

俺は、チェギョンに嘘をついてる・・・・俺の嘘を許してくれるか?こんな俺について来てくれるか?






いつの間にかシンの腕の中で軽い寝息を立てているチェギョン。シンは軀を起こすと、乱れたブランケットを掛け直した。
「おやすみ、チェギョン。」
軽く彼女の髪にキスを落とす。シンは再び横になってチェギョンの柔らかな体に腕を回すと、抱きかかえるようにして胸元に引き寄せ目を閉じた。

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Author:hana
韓国ドラマ【宮】をベースにした妄想話を綴っています。王道ありパラレルあり、風の吹くまま気の向くまま…

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