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真夏の蜻蛉・・・30


皇太子イ・スの自動車死亡事故から2カ月。元皇太子妃ファヨンはその素早い行動力と優れた機知で王族会を動かし、自分の夫を追尊へと導いたあと、景福宮にほど近い慶煕宮に居を構えた。
東宮へ入宮した際に持ち込まれた品々は全て慶煕宮へと運び込まれ、自分達の香りを残すものは何一つとして置いていくことを禁じられた。ガランとして静まり返ったパビリオンに佇むファヨン。
いつか自分の夫と息子がそれぞれに皇帝となり、自分は皇后として、皇帝の母として、その栄華を極める筈であったのに…と、わが身に降りかかったその運命を呪った。

「すべては、あの女のせい…」

パビリオンからテラスに出て、抜けるような青空を見上げたファヨン。今日は最愛の息子ユルが韓国を離れる日。
皇帝は、ユルを皇太子にすることを許さなかった。
ユルがまだ若い、というのが理由であったが、その実皇帝の思惑は違う所にある、とうすうす感じてはいた。
それは自分の夫イ・スへの不信感。皇太子でありながらその本分を見誤った。平民出の女に手をつけ子まで生し、其の関係をずっと続けていた。大切なイギリス訪問を目の前にしての自動車事故。しかも事故当時同乗していたのは…

「陛下はきっとこのまま私達親子を闇に葬り去るおつもりだわ。追尊は漸くお認めになったけれど、次はない…とおっしゃった。次はない、というのはきっとユルの事」

形の良い唇を噛みしめたファヨンは、パビリオンの方へ振り返った。
この煌めくステンドグラスの窓が大好きだった。光があたって落ちるさまざまな色をユルと一緒に楽しんだ。夫の愛情がなくとも自分には愛する息子がいる。夫に傷つけられた自分の心をユルはその小さい可愛い手で何度も温めてくれた。

「母上…」
「ユル」

静かに近付いてくる息子ユルにファヨンは両手を差し出した。

「しっかり勉強してくるのですよ」
「はい、母上」

「貴方は皇太子にそして皇帝になるのです」
「…」

「あなたが再びこの景福宮の地を踏むことがこの母の願い。忘れてはいけません、父上の浅はかな行動を。己を律するのです。陛下に必ずや貴方の事をお認めさせるのです」

ファヨンの震える薄い肩を抱きしめたユルは目を閉じた。
母の辛く永い日々は、今までもそしてこれからも続いて行くのだろう。元皇太孫としての自分の立場は今、とても不安定だ。皇太子の地位が叔父イ・ヒョンに譲られてまもなく、皇太孫が自分とシンのどちらかになるかが王族会で論議されたが、意見は真っ向から分れた。審議は何処までも平行線であり皇后であるパクが、ユルとシンが留学先から帰国するまでは審議しないでおくようにと助け舟を出してくれた。

「母上、お体を大切に」
「ユル…」

「皇族として自分を磨いてまいります。全ては天の思し召しのとおりに…8年後を楽しみにしていてください」
「ええ、そうするわ…ああ、ユル、私にも楽しみが出来たのよ。貴方のお相手を探すこと」

両手を離して息子の顔を嬉しそうに見上げるファヨン。

「お相手…ですか?」
「ええ、陛下は仰ったわ。学問を究め、妃を娶ってからだと…だから全てはこの母に任せなさい、いいですね?」

「はい、母上。では行ってまいります」

自分の相手を探すこと、それが今の母の生きがいになるのであれば、とユルは反論もせず母の肩を再び抱くとお辞儀をしてパビリオンを後にした。

皇太孫としての自分は、今まで何一つ自由がなかった。
自分の未来は既に決められていた。
それが当然の事なのだとなんの疑問も抱かなかった。
父が亡くなったことで、ほんの少しその当然の事が当然ではなくなってきている。もしかしたら自由を求める事ができるのではないかと思い始めている自分がいた。

「自由…か。望めなかった言葉、だ。でもこれからは、すこし違うのかもしれない」

東宮玄関に待っていた従者達を従えて車に乗り込むユル。その瞳は近い未来を見つめていた。













国中が喪に服した夏が過ぎ去り、学園にも学生達の笑い声が戻ってきた9月、放課後のCクラスでは気落ちしたヒスンとスニョンが自分の机に突っ伏して皇室アルバムを力なく捲っていた。

「あーあ、まるで抜け殻ね」

メガネをくいっと上げて仕方なさそうに首を振ったガンヒョンが二人の前に立った。皇室アルバムをパタンと閉じたヒスンは涙目でガンヒョンを軽く睨む。

「抜け殻で結構よ!どうせもうこの先私達にはなんの楽しみもないのだから、もうおしまいよ!」
「あらあら…この世の終わりじゃないのだから、ね。素敵な男子はいっぱいいるじゃない」

「どこよ!どこにいるっていうのよ。もう!RF5とご一緒出来たのはほんの3カ月だったのよ。どうしてこうなっちゃたのよ!皇太子殿下が亡くなられたからってどうしてRF5が留学しなくちゃいけないの!ねぇ、なんで!どうして!!」
「そんなの知らないわよ!きっとこの学園じゃ駄目だったんじゃないの?やっぱりお高くとまっている連中は違うのよ。身分が違うの!あの皇太孫の誕生パーティを見たって解るでしょ?今頃は社交界デビューってヤツを果たしているわよ、きっと。あーあ、ほんと疲れるわ」

ガンヒョンは忌々しそうに腰に手をやると、自分の机に座って頬杖をついているチェギョンを眺めた。あのパーティの日以来、チェギョンの様子がほんの少し何処となく違うような気がしてならなかった。いつもであったなら夏休みには必ず自分達と遊びに出掛けたり、宿題をお互いにやったりしたのに、今年は違っていた。母親の手伝いがあるからと自分達の誘いには乗らなかったのだ。

「チェギョン…」
「ああ、ガンヒョン」

「夏休み、どうだった?アンタ、付き合い悪かったじゃない?」
「ごめん」

「なに?それだけ?」
「う…ん」

大騒ぎとなったあの誕生パーティ。
チェギョンは碧龍君に手を引かれてどこかへ姿を消した。そして皇太孫と彼がいつの間にかいなくなった後で姿を現した彼女の顔は涙の痕があったが満面の笑みを浮かべていた。無理して笑っていると直感したガンヒョンだったが、御馳走を食べると息巻く彼女にあの時は何も訊くことはできなかった。

「これでやっとこの学園も静かになるってもんじゃない、せいせいしたわ。あの連中が留学して。最初からそうすれば良かったのよ。やっぱり平民は平民同士よ。棲む世界が違うんだから」

ガンヒョンの一人納得したような言葉を聞いていたチェギョンだったが、いきなり立ち上がるとカバンを手にして教室を逃げるように出て行った。

「どうしたの?チェギョン!」

ガンヒョンは教室を出て行くチェギョンの頬がほんの少し光っているのに気付いた。


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Author:hana
韓国ドラマ【宮】をベースにした妄想話を綴っています。王道ありパラレルあり、風の吹くまま気の向くまま…

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