FC2ブログ

真夏の蜻蛉・・・28

ギリっと下唇を噛んだヒョリンは、深紅のドレスを両手で強く掴みそのまま蒸気した頬をほんの少しあげて、シンとチェギョンが消えていった方向を睨んだ。

最初に皇太孫イ・ユルと踊るのはこの自分だったのだ。しかし、ユルが選んだのはあのチェギョン。いくら幼い頃から一緒に育ったとはいえ、心の奥底では主人と使用人という一線をどこかで引いていた。成長するにつれて、その一線は確実に太くなっていく。そんな気持ちを知ってか知らずかチェギョンはほんの少しずつ遠慮するようになり、最近ではチェギョンの父が運転手を務める車に、チェギョンは乗らないようになっていた。


「…身の程知らずってこういうことを言うのね」


ヒョリンと同じクラスのジオンが、大げさに溜息をつきながらヒョリンに同意を求めるような視線を投げ掛ける。そんなジオンの言葉に慌てて唇を緩めたヒョリンは、余裕たっぷりに笑いを返すと胸元のネックレスを押さえてマスコミに囲まれているユルを眺めた。


「お情け、、よ。殿下の…」
「え?」

「だって皇室主催のパーティなのよ。Cクラスの方達っていったい何回こんなパーティに出られるのかしら。多分これが最初で最後だわ。だから殿下はあの方たちに情けをかけて差し上げたのよ。あの子可哀相だわ。きっと殿下に夢中になったとしても絶対叶わない夢を見続けるだけよ」
「そうね、ヒョリンさん」


妙に納得したように頷くジオンを尻目にヒョリンは広間へ進み出ると、ユルの前に立ちはだかった。


「お約束、よ。殿下」
「ああ、ヒョリンさん。そうだったね」


伸ばされたヒョリンの真っ赤な手袋に片手を添えてにっこりと微笑むユル。そんな二人に大きなどよめきが拡がりマスコミが一斉にシャッターを切り始めた。歓喜と羨望の眼差しの中、ユルはゆっくりとヒョリンを広間中央へ誘っていった。








雨はいつしかガラス窓を強く叩くほど激しくなっていた。鉛色の空に時折稲妻が走る。
シンは目の前で両膝を抱え、そのふっくらとした頬に涙を流すチェギョンにどう声をかけていいのか解らなくなっていた。いつもの彼女とは全く様子が違うのだ。
絹糸のように細く柔らかい髪も、震える細い肩口も、花びらのような可憐な口元も、涙に濡れそぼった長い睫毛も、そして匂い立つような女の子の香り。


「酷いわ」
「え?」

「身分の高い方達って、ホント酷いこと、するの、ね」
「チェギョン」

「あんな人が未来の皇帝?この国もおしまいね」
「チェギョン、ユルはそんなつもりで…」

「じゃ、どんなつもりなの?これじゃいい慰みモノじゃない!写真まで撮られて、バカにされて!シン君、あなたも同罪よ!」
「俺は、俺は違うっ!」

「何処が違うのよっ!殿下とは従兄弟同士でしょ?…そう、そうね、私がバカだったのよ。興味本位でこんな所へなんか来るから…もう帰ろう。いつまでもこんな所にいたくない!」


濡れた頬をグイッと手の甲で拭ったチェギョンは、ドレスの裾をパンパンと叩いて立ち上がった。


「シン君、此処へ避難させてくれたことは感謝する。だけどもうこれ以上あなた達とは関わりたくないし、静かな学校生活を送りたい。じゃ…」


小部屋のドアノブに片手を差し出したチェギョン。シンはそんな彼女の腕を慌てて掴む。


「何するのっ!?」
「違うんだ、チェギョン」

「どこが違うの?」
「俺は…」

「離して!なにをす…」


チェギョンは、シンに腕を掴まれたまま睨み返すように彼を見上げたが、自分を見下ろすシンの瞳の色が居たたまれない程哀しげで、思わず次の言葉を呑みこんだ。
次の刹那、チェギョンはシンの胸元にふわっと獲り込まれてしまっていた。温かなシンの鼓動がチェギョンの頬に伝わってくる。


「ずっと、気になっていた、君を…」
「…嘘。だって貴方は」

「誤解だ。自分の人生は自分で決める。ずっと考えていた。そして漸く気がついた。俺は…」
≪碧龍君様!碧龍君様はおられますか!?≫


小部屋を激しく叩く音にシンは慌ててチェギョンを離し、背中へ隠してドアのカギを開ける。


「どうした?キム内官。」
「大至急、宮殿へ戻れとの陛下の御命令です!」

「おじい様、が?ユルは?」
「ただ今お支度を整えまして出発致しました。」

「パーティは?」
「せっかく開催しましたのでご出席の方はこのまま楽しまれるように、と。」

「一体どういう…」
「詳しくは申し上げられませんが、どうぞお急ぎ下さい。」


キム内官はシンの後ろに隠れているチェギョンをチラッと見てから視線を伏せた。キム内官にこうして待たれては為すすべもない。


「ごめん…」


そう言い残すとシンはキム内官を従えて小部屋を出て行ってしまった。
開いたままになっているドアに躰を預けたチェギョンは、キム内官とシンの後ろ姿を見ながらいつしか笑い出していた。


「やっぱり…ね。大馬鹿だわ、ミン・チェギョン。シン君の言葉、一体何を期待していたの?アンタは使用人の娘じゃない。シンデレラはシンデレラらしく…ね」


チェギョンの姿を見つけたガンヒョンが、心配顔で走ってくる。
チェギョンは、務めて明るい顔でガンヒョンに笑顔を返した。


「ガンヒョン、元を取らなくちゃ。さぁ御馳走食べよう!」











遡ること15分前、景福宮本殿。


「陛下っ!陛下っ!緊急事態でございますっ!」
「どうしたのだ?侍従長。そなたが取り乱すなどと尋常ではないではないか」

「皇太子殿下がっ!イ・ス殿下がっ!」
「世子がどうしたのだっ!?」

「自動車事故に・・・遭われたと!」


いきなり立ちあがった皇后。その顔は蒼白で傍付きの尚宮が慌てて駆け寄った。


「自動車事故?公務の途中であったのか?!」
「そ、それが・・・」

「早く申せっ!」
「そ、その、女官が、一緒の女官が、例の…」


その場に崩れ堕ちる皇后。皇帝はギリリと唇を噛んだ。


「侍従長、今すぐ支度を!」
「はい。」

「この事、絶対に他に漏らしてはならぬ。」
「は、はい。」

「昌徳宮のヒョンと水原にいるユルとシンを呼べ!」
「畏まりました!」



そして…時の歯車が大きく狂いだしたのだった。


スポンサーサイト



- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 - - - -
08 10
プロフィール

hana

Author:hana
韓国ドラマ【宮】をベースにした妄想話を綴っています。王道ありパラレルあり、風の吹くまま気の向くまま…

コメント入力に関しましては、お名前と内容だけで大丈夫です。アドレスやPWは無用ですよ~

訪問者数
新着
☆彡カテゴリ☆彡
♪りんく♪
月別アーカイブ