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真夏の蜻蛉・・・23

「心配、しないんだね」
「え?」

「シン・ヒョリンさん、君は気にならないの?」


ヒョリンの座る机に近付いたユルは、指先でトントンと彼女の机を叩いた。終業の鐘はとっくに鳴っていて、他の生徒達は課外活動へと移動している。いつもは廊下にいて騒がしいくらいのユルの親衛隊の女の子達も今日はなぜだか早々に引き揚げていた。


「何を心配するのですか?」
「ふーん・・・」

「殿下、遠回しな言い方は止めて下さい」


ほんの少し苛立ったような表情を見せて学生カバンを手に持つと、ヒョリンはスクッと立ち上がった。流石にトップクラスの王族の娘だけあってその立ち姿はとても美しい。ユルはフフンと鼻先でほんの僅かに哂うと目の前の美しい娘を見据えた。


「曲がりなりにも陛下がお決めになった許婚だ。ギョンが心配するように君もシンを心配すべき、じゃないのか?」
「ああ、其の事…」

「そう、其の事、だ」
「関係ないですから」


教室から出て行こうとするヒョリンの行き先を阻むようにユルは彼女の目の前に立つと、今度は可笑しそうに哂った。


「な、何が可笑しいのですか?」
「ほんと、君って正直な人だよね」

「えっ?」
「そんなに僕の事が気になる?あ、いや、違うな。君には大きな夢があるんだった、皇太孫妃っていう?」

「なっ…」
「僕は妃を娶る。そして、その妃は身分も教養も容姿もすべてこの僕に釣り合う女性だ。ただ、それまでは自由な恋愛もしてみたいと思っている。楽しいだろ?僕の世界とは違う世界にいる女の子達とだ。親衛隊の女の子達を見ているととても面白い、まるで小動物のようだよ。でも、あの煩さはいただけない」

「…あの子達は殿下に対して真剣ですわ」
「真剣…ね。でもいちいち相手にしようとは思わない。それよりも、この皇太孫の僕に全く興味がないっていう女の子には逆にソソられる、なんとか振り向かせてみたいって思うね」

「つまり、貴方にたいしてあからさまに態度を示す方には興味はないってことですの?」
「ヒョリンさん、何度もいうが君は陛下がお決めになったシンの許婚だ」

「私は…承諾しておりません」
「ふ~ん…陛下の思惑通りにはいかないってわけか。シンも君も…」

「いけませんか?人の想いは他人にどうこうできるものじゃありません」
「……そう、か。」

「そうです!」

パタパタと窓際の掲示物が風に吹かれて揺れている。課外活動の生徒達の声がその風に混じって教室で向き合う二人の耳に聴こえてきた。
ユルはほんの少し溜息をつき両手を後ろに組むと、カーテンがはためく窓辺へと歩いていきくるりと振り返りヒョリンを眺めた。僅かだが彼の口角がゆっくりあがる。


「じゃ、今度の僕の誕生パーティで君をエスコートしようかな」
「え?」

「パーティの主旨を考えると誰かをエスコートしなくちゃならないんだが、決めかねていた。陛下の驚いた顔を見てみたい……なんせ君はシンの許婚なんだから。この意味わかるよな。」
「…」

「孫同士のあ・ら・そ・い。ひとりの女を巡って、ね」
「!」

「ははは、余興だよ、余興。毎年開催されるパーティはほんとに退屈で仕方がないんだ。たまには気晴らしだってしたいよ」
「…あの、余興でもエスコートしてくださるの?」

「今、決めた。シンも驚くな。ああ、これでシンに少し恩を売ることも出来るかな?シンだって君をエスコートするのは嫌だろうからね。ただ…」

「ただ?」
「エスコートするのは君だけじゃない」

「他にもいらっしゃるの?」
「ああ、ちょっとね…」


教室の外に護衛の姿が見えた。ユルは軽くヒョリンにウィンクするとカバンを持って廊下へと向かう。ヒョリンはカバンを胸に抱えるとギュッと抱きしめた。自然と頬が紅潮してくるのが解る。祖父同士が勝手に決めた自分の未来がほんの少し揺らぎ始めていることに胸が高鳴る。余興でもなんでもいいのだ。皇太孫のユルが誕生パーティでこの自分をエスコートする。この重要な意味が解らないほどバカじゃない。きっと多くのマスコミ達が来るだろう。未来の皇帝の横に立つ女性の姿にきっと大騒ぎするだろう。


「殿下にしてみれば余興だとしても、碧龍君とのお話はなかったことにきっとなるわ。ええ、そうよ。そうと決まったら、あのドレスでは駄目だわ。お母様におねだりしなくちゃ。あ、それとネックレスも…未来の皇后に相応しいものでないと…」


他にもエスコートしたい女性がいるというユルの言葉が少々気にはなったが、シン財閥の娘である自分を差し置いてまでの人物がいるとは到底思えないヒョリンは、意気揚々と自分を待つ車にその歩みを進めた。








「ここ、どこ、ですか?」
「昌徳宮でございます、お嬢様」

「昌、昌徳宮???お、お嬢様って、私、そんな…」

「そんな、ガラじゃない、ってか。」
「シ、シ、シ、シン君っ!?」


シンの声にチェギョンの回りを取り囲んでいた女官たちが恭しく頭を下げてさがっていく。古めかしい天井が見える広いベットにとり残されたチェギョン。両手を組んで入り口の扉に凭れていたシンは、ベットにいるチェギョンの傍まで来て呆れたように溜息をつく。

どうして自分がここにいるのか。
どうして目の前にあの憎たらしいイ・シンがいるのか。
自分のまわりでガサゴゾと衣擦れの音がして改めてチェギョンは自分の姿を見下ろした。


「ハレっ?私なんでこんなもん着ているの?ちょ、ちょっと!シン君。あなたが、か、か、勝手に脱がしたのっ?!」
「はぁ?」

「スケベ!チカン!こ、この…うぐぐぐ、」


シンの大きな手のひらがチェギョンの唇を塞ぐ。


「おいっ!騒ぐのも大概にしろ!一体どうしてこうなったのかお前は全く覚えてないのか!?」
「うぐ?」

「お前~俺の制服にゲロを吐きやがった!」
「ふ、ふぇっ?」

「お前は俺の服を台無しにした挙句に失神したんだっ!」


シンの手を慌てて外したチェギョン。信じられないという顔でシンの顔を見上げる。


「な、なんで私がゲロを吐いたからって昌徳宮に連れて来られなくちゃならないの?確か、私、保健室にいた筈だし・・・先生を呼んで来れば済むこ・・・あっ!な、なんでシン君が保健室に居たのよっ!?クラスだって違うし、私が倒れたのを知っているのはCクラスの子達だけだし・・・そう!なんでシン君がいたのっ?!」
「そ、それは・・」

「シン君に保健室をのぞき見する趣味があったなんて知らなかったわ!ああ、そうか!RF5の方達ってお高く止まっていながらこういうことをやっていたのね。だから王族の人って・・」
「違うっ!」

「何が違うのよ!」
「だから・・」

「だから?」
「お、俺のカバン持ちだろ?」

「へ?」
「だからお前は俺のカバン持ちだ!」

「それが何だっていうのよっ!」
「・・そ、その、帰りのカバンが・・・」

「帰り?」
「・・もうどうだっていいだろ!2時間もあればお前のジャージが戻ってくる。そしたら帰れ!」

「そんなに怒鳴らなくても聞こえているわ」


そう、貴方はヒョリンに結婚を申し込んだ王子様。
これ以上貴方と関わりを持ちたくないし、こうして一緒にいることさえヒョリンには悪いわ。
だけど、こんなに性格が悪いなんてヒョリンは知っているのかしら。
意地悪ばっかり…
だけど、
もしかして、
心配してくれた?
どうしてここへわざわざ私を運んできたの?
意地悪ならば自分だけさっさと帰ればよかったのに。
あと2時間もこの部屋にいるのは気まずい…な。


「ね、どうせだから見せてもらえないかな?こんなチャンス滅多にないもの」
「はぁ?」

「昌徳宮の秘苑。一般には開放してないでしょ?最初で最後だから・・・いいわよね」
「好きにしろ。誰か女官に案内させるから」

「ありがと!」


ベットからひょいと起き上がったチェギョンは着せられた韓服を物珍しそうに眺めながら、シンの傍に立った。ジャージでは見えなかったチェギョンの白い項と胸元が背の高いシンからは露わに見えてしまい、慌てて咳払いしながらチェギョンから離れると、女官を呼んだ。


「こいつを秘苑へ案内してくれ。服が戻ってきたら帰ってもらう」

「はい、碧龍君様。では、お嬢様こちらへどうぞ」
「ありがとうございます」


白いチョゴリと紺色のチマを着たチェギョンは、楽しそうにゲストルームを出て行った。その後ろ姿を見てシンは大きな溜息をつく。


確かに此処へ連れて来なくても良かったのだ。
職員室にいる養護教諭を呼べばいい事。
しかし、どうして保健室に居たのかと問われれば返答に困る自分がいる。
カバンをダシに使ったけれど本当のところは・・・


「くそっ!俺は一体何をやっている?」


自分の部屋へ戻るとシンはソファに腰をおろし読みかけの本を開いた。気持ちを本へ集中させようとするが、紙の上にあるハングルが全く動かないのだ。無理やり本のページをめくっても、秘苑にいる彼女の事が気になって仕方がない。長い脚を何度も組み替えてフッと溜息をつくと、手元にある本を閉じてそれを気だるそうにソファの下へ投げ捨てた。







「…様」
「…」

「碧龍君様」
「え?ああ、キム内官、どうした?」

「お帰りに、なりました」
「そう、か」

「何か御伝言でもございましたか?」
「いや。」

「では、私はこれで…」
「キム内官。」

「はい?」
「ミン・チェギョン嬢に連絡を、頼む」

「どのような事でございましょうか?」
「もう昌徳宮に来なくてもよい、と」

「畏まりました」


そうこれでいい。
気になるなら近付けなければいいのだから。


机に置かれたカバンをシンはじっと見つめた。











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Author:hana
韓国ドラマ【宮】をベースにした妄想話を綴っています。王道ありパラレルあり、風の吹くまま気の向くまま…

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