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真夏の蜻蛉・・・7



「はぁ、全く。始業式からとんだトバッチリ受けちゃったな。なんで私がこんな事しなきゃならないのよ~しっかり先生には顔と名前覚えられちゃったし」

生徒に配られる新学期用のプリント、その束を両手で抱えチェギョンは1階の教務室から5階のクラスまで非常階段をブツブツと文句を言いながら上っていた。

「何で先生はエレベーターがOKで、生徒は駄目なの~ああ、もう!」

つくづく要領の悪い自分に嫌気がさしたチェギョン。運んでいるプリントを配らばければ今日は終わりにならない、しっかり運べ、とパク教官に言われたのだった。他のクラスはもう終わったのだろう、校庭が俄かに騒がしくなっている。
あと1回踊り場を回れば、というところでふとチェギョンは人の気配に立ち止まった。

(あれ?ヒョリン…うん?あっ!あれって…さてはヒョリンにも難癖付けようって魂胆じゃないでしょうね)

幼馴染である以上に、シン家の使用人の娘とあらば、シン家の人々をお守りしなければならない立場だ。チェギョンが踊り場に繋がる階段を一段上がろうとした時だった。

「貴方が私の許婚だなんて驚きましたわ、碧龍君様」
「シンでいい」

(えっ!何?)

チェギョンは上げた脚をそのままにして固まった。

「わかりました。」
「それで?君はどう思ってる?シン・ヒョリン嬢」

「ヒョリンでいいです」
「じゃぁ、ヒョリン。俺と結婚する気はあるのか?」

(け、け、結婚!?高校生が結婚って…ヒョリンとあの男が?!)

≪バサバサッ≫
「あっ!」

あまりの驚きにバランスを崩したチェギョンは階段を1段踏み外し、プリントを全部その場にぶちまけた。

「誰だっ!」
「誰なの?」

バタバタと階段を下りてくる二人にチェギョンはたじろいだ。盗み聞きするつもりでここにいたわけではないけれど、きっとヒョリンには嫌な思いをさせてしまう。慌ててプリントをかき集めそれで必死に顔を覆ったチェギョン。無駄な抵抗ではあったが、此処で顔を見られる訳にはいかないと単純に思った。

「おい!」
「…」

「そのプリントをどかせ」
「…」

威圧的な声に一瞬ひるんだチェギョン。階段を踏み外した脚は少々痛かったが、無理をしてでも此処から逃げなければならない。チェギョンはくるりとそのまま後ろを振り向くと必死で非常階段を駆け下り非常口を開けエレベーターに飛び込んだ。

「ちっ!逃げ足の速いヤツ…ふふん、アイツだ」
「…知っているのですか?」

「ああ、あのお団子頭を見ればな。頭隠して尻隠さず、じゃなくて、顔隠して…か。ふふっ」
「…」

幼馴染のヒョリンにとっては、すぐに正体がチェギョンだと分ったが、彼女を見るシンの瞳の色が自分に向けたそれとだいぶ違うことに気づき押し黙った。

ミン・チェギョンはシン家の使用人の娘。
皇太孫の従兄弟であるシンの記憶の中に留まるだけでも腹立たしい。
ましてや目の前にいるシンは皇帝陛下が決めた自分の許婚なのだ。

何不自由なく育ってきたヒョリンにとって初めてのチェギョンに対する嫉妬だった。






「遅い!何をやっていた?ミン・チェギョン!」
「先生~すみません。ちょっと転んで」

「ああ、もういい。学級委員長!このプリントを配って終わりにしなさい。私は教務室へ戻る」

学級委員長と呼ばれた女生徒がチェギョンの傍にやってくる。

「え?ガ、ガンヒョンが委員長?」
「ええ、そうよ、チェギョン。全く…委員長でもやってなきゃアンタの事守れないでしょ?」

「あ、ありがとう、ガンヒョン」

チェギョンから受け取ったプリントをヒスンとスニョンを使っててきぱきと全員に配りホームルームを終えたガンヒョンは、椅子に座りこんで机に突っ伏すチェギョンの前に静かに座った。

「さて、何がどうした?」
「…」

「ミン・チェギョン!」
「…ガンヒョン、あのね、知ってる?」

「なにが?」
「碧龍君て誰の事?」

「はぁ?!」

ガンヒョンの呆れた声にヒスンがすかさずチェギョンの傍に立ち、両手を腰に添えて声高らかに言い放った。

「碧龍君とは、現皇帝陛下の孫、そして皇太子殿下の弟君、大君殿下のご長男であり、皇太孫殿下の従兄弟であらしゃるイ・シン様でございます!」
「ほぇ?」

「そんなことも知らないの?チェギョン!今日の始業式で一番背の高かったアノ方よ~一度でいいからあのお体に触れてみたいの。きっとカラダ中に電流が走ってアタシ失神するわぁ」

夢のように両手を組んで涙目になるヒスン。
そんなヒスンを見て自分はとてつもなくイケナイ事を聞いてしまったのではないかと今更ながらに恐ろしくなってきた。

きっとヒョリンとの事は秘密なのであろう。
でなければとっくにマスコミにリークされている筈だ。
小さい頃からお姫様になりたかったヒョリン。
ああ、だから今朝協力してねって言っていたんだ。
AクラスにヒスンのいうRF5が編入してきたのも皇帝の思し召しと聞く。
Aクラスにはヒョリンがいる。
だから・・・・

「RF5の一人なのね」
「そうよ、そう。チェギョン、とうとうアンタも仲間入りだわ~」

スニョンは嬉しそうにチェギョンの腕を取った。ガンヒョンはその手を煩さそうに振りほどき、チェギョンの肩を抱いた。

「ほら、もう。くだらない事話してないで帰りましょう。あ、そうだ!トッポキ食べて行く?美味しいお店発見したの」

チェギョンはガンヒョン達には今あったヒョリンの事は黙っていようと決めた。
シン家にとってのこの縁談はとても素晴らしいものになるに違いない。
本物のお姫様になれるヒョリン。
長年の夢が叶うのだから。

「イ・シンか、ほんとの王子様だ…良かったね、ヒョリン」

そう呟いたチェギョンの言葉はあまりにも小さくて誰の耳にも届かなかった。









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Author:hana
韓国ドラマ【宮】をベースにした妄想話を綴っています。王道ありパラレルあり、風の吹くまま気の向くまま…

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