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真夏の蜻蛉・・・6




「皇太孫殿下~お好みのオルチャンはいらっしゃいましたか~?」

皇帝の第一弟の孫イ・ギョンがユルの肩に手を置いて面白そうに彼の顔を覗きこむ。そんなギョンの手をやんわりと振り払うとユルは逆にギョンの腕を締め上げた。

「おい、ギョン。此処では≪皇太孫≫はナシだ。学校にまで来て窮屈な想いはしたくないからな」

不敵な笑いを含んだユルはなお一層ギョンの腕を締め上げる。

「痛ててて…わ、わかったよ、ユル!勘弁してくれよ~」
「分ればよろしい」

ユルの手が離れ、ギョンは本当に痛そうに腕を擦った。

「全く陛下の考えることって分らないよな。どうせ一緒にするなら幼稚舎からにすればいいのに。僕の青春を返してくれ!」
「イン、今からが青春じゃないか、そんなこと言うなよ」

皇帝の第二弟の孫イ・インが天を突きあげて残念がっている姿に外戚のひ孫のパク・ファンがカメラを彼に向けながらパチリとシャッターを押す。そして一人後ろを歩いているシンに声を掛けた。

「シン、どうしたんだ?せっかくの陛下のご厚意だ。喜ばなくっちゃな」
「ああ、そうだな」

「なんだよ~普通クラスに編入したのが不満か?」
「いや、そうじゃない」

「だったらもっと喜べ!」

ファンがカメラを手にしてシンの横にピタリとつく。

「ほら…これ、さっきの子だ。可愛いよなぁ。だけど僕達のクラスじゃない。Aクラスって王族会の令嬢ばかりだって聞いている。面白味も何にもないよな。僕達きっとAクラスの女どもの餌食になるに決まってる」
「ファン、そんなことはないとは思うが…」

「甘いね、シン。ほら、見てみろよ」

Aクラスへ続く廊下の両側に、頬を赤く染めた女の子達が一列に並んで自分達を待ち構えている。手にはリボンのついた箱、箱、箱。

「どうせ、ユル狙いだろ?俺達は付録に過ぎない」
「シン…そりゃそうだけど」

キャーという悲鳴があがりたちまちユルは女の子達に囲まれてしまった。皇太孫ユル、未来の皇帝だ。あわよくばユルに気に入られ、皇后の座を手中にしようという王族会令嬢達、その背後の長老たちの思惑が透けて見える。

「ほら、ギョン、イン、ファン、行くぞ」

クラスの入り口に立ったシンは、ため息をつきながら自分の席へとその長い脚を進めた。




窓際の席がいい…そう編入する時に教務主任に伝えた。警備の上からは皇太孫であるユルには難しい場所だったが、皇位継承第4位の自分にはなんら問題はない。
ストンと希望の席に座るとシンは目の前で指を組んで額につけ目を閉じた。

皇帝の思し召し…
シンは昨夜呼ばれた上殿での出来事を思い出していた。

『シン、お前に話しておきたいことがある』
『はい、陛下』

『実はお前にはすでに決められた許嫁がいる』
『えっ?!』

『驚くのも無理はない。しかし、決まったことなのだ。明日から編入するクラスにお前の許嫁がいる』
『お、お待ちください、陛下。ユル、ユルが先ではないですか?』

『悪く思わんでくれ。これは約束なのだ』
『約束…』

『守らねばならぬ』
『…』

皇帝の約束であればそれは国法と同じくらい重みがある。それを破る事は到底不可能…
シンはカラカラに乾いた喉を潤すべく何度も唾を飲み込もうとしたが、唾さえ出てこない。

『陛下、その許嫁のお披露目は…』

『ユルの相手が決まってからだが、いずれユルも早いうちに決まるであろう。さすれば、18の歳にはそなたとユル、二人とも婚姻を済ませられる。皇后も喜んでおる。あの世に行く前にひ孫の顔を見られる…とな』
『…ひ孫!』

『そなたの許嫁の名前はシン・ヒョリンと申す。私の親友だったシン・ジョンウンの孫だ。幼い頃何度か逢った事があるであろう?』
『幼い…頃?』

『まぁ、よい。明日には再び逢えるのだからな。美しい女人になっておるだろう。では、これで話しは終いだ』

祖父である皇帝の前から下がったシン、その顔はかなり蒼白だった。お付きのキム内官が心配そうにシンに声を掛ける。

『陛下のお話は…』

『キム内官、貴方は知っていたのですか?』
『…はい。存じておりました』

『どうして言ってくれなかった!』
『シン様…』

『知っていれば俺は…』
『陛下の思し召しなのです。避けることは出来ません。申し訳ありません』

頭を垂れたままの内官に怒りを向けることはお門違いとは重々分っていたが、どうも胸の中の憤りを沈める術が見当たらない。シンは拳を振り上げると回廊の壁を激しく突いた。

『お、お止め下さい!』

慌てたキム内官がシンの腕にすがる。

『俺は…俺は陛下の人形じゃない!シン・ヒョリン?そんな女知るかっ!』
『どうか、シン様、怒りをお納めください』

『どうせ、宮中に興味があるだけの出世見え見えの女に違いないんだ。許嫁?笑わせるな!』

シンは、おろおろするキム内官をその場に置いて振り向きもせず上殿を後にした。






窓辺から入ってくる風はシンの頬を優しく撫でて行く。
期待していた筈の高校生活もすでに色褪せたものになったとシンは哂った。勝手に決められた生涯を共にする相手。恋も愛もなく、皇帝の約束として自分の前に現れるだろう許嫁。

「タヌキ…」

突然目の前に現れた一人の女子学生。2つのお団子頭に2つのデイバック。自分を特別視しないその瞳に惹かれて思わずその口に触れてしまった。騒がれるのを塞ぐ・・という大義名分があったが。
一陣の爽やかな風が吹き去ったような出会い。ユルには鈍臭いなどと言ってしまったが、妙に惹かれる子だったのは事実。

シンは窓から見える新緑の木々にその視線を泳がせ、先程の固まった女子学生の顔を再び思い起こしていた時だった。

「碧龍君殿下、イ・シン様」
「え?」

「私、シン・ヒョリンと申します」

組んだ指先を解いて目の前に立つ女子学生を見上げるシン。その視線の先には、艶やかな笑顔をこれでもかと張り付けたヒョリンが、ほんの少し首を傾げて立っていた。










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Author:hana
韓国ドラマ【宮】をベースにした妄想話を綴っています。王道ありパラレルあり、風の吹くまま気の向くまま…

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