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五指外伝 8 

3年前のあの日、母は僕に悪態をついた。それが母の心の裏返しだって事は充分僕には解っていた。それでもなお、僕を拒絶する。母は自分自身に罰を与えていたのだと思う。心が壊れる程僕という人間を渇望していた。母として抱きしめたいのに抱きしめてはいけない、優しい言葉を掛けたいのに掛けてはいけないのだ・・・と。

母の元を去ったあと一体何があったんだ?
いや、母はまだきっとあそこのの家にいるに違いないのだ。
そう、そうしてまた僕に悪態をつく気でいるんだ。

いっそうアクセルを踏み込み込んだ僕は、長旅の疲れを忘れていた。












「おば様・・・ジホオッパが今日帰ってくるんですって。逢いたかった・・・でしょ?きっと素敵なピアニストになっているはずよ。あれから3年ですもの。凱旋帰国コンサートを開かせるってイナさん言っていたわ。楽しみよね。今日は、どの曲にしましょうか・・・・ショパン?それともドビュッシー?」

「・・・どうして、」
「あっ!!」
「どうして君がここに・・・いる?」
「ジホ・・さん!」
「なんで君がここにいるんだ!!」

CDがタミの手から転がり落ちた。

「君は・・・君の家族は母を許さなかったはず。そう、そうさ。それは当然の事・・・だ。」

足元で止まったCDを拾い上げ、驚いたように見上げる彼女の瞳から僕は慌てて視線を外した。懐かしい筈なのにずっと心の中で追い求めていた彼女が目の前にいるのに、今は母の事で心は一杯だった。

「ジホさん!ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
「なぜ君が謝る?」
「私が・・・私が選んでいたの・・・」
「選んで?何を選んでいたって言うんだ?」
「お母様のCD・・・を・・」
「!」

なんてことだ・・・
彼女が母のCDを選んでドイツに送っていたっていうのか?
どうして?
なんでそんな必要がある?

「お母様が亡くなってからずっとお母様の名を騙って送っていたこと・・・許されない事だって・・・解っていました。だけど・・・」
「だけど?」
「自分が亡くなった事は絶対ジホさんには知らせるな・・・って、あなたの足かせにはなりたくないって・・・」
「え?」
「だから・・・だから・・・・・」

座りこんだ彼女の前の床に一粒、二粒と涙が落ちるたびに大きなシミが拡がっていく。僕はそのシミをただ茫然と眺めていた。

「私ここへ来るうちにお母様の心が痛いほど解ってきて・・・・この寂しい海辺の家でたったひとり目がみえないのに・・・・幼いジホさんとの時間と距離を必死になって埋めようとしていたんだって。」
「タミ・・・」
「私の家族はもう誰一人としてお母様を恨んでなんかいません。きっと私達に課された神様の試練だったんだって・・・母はそう考えるようになりました。子供を想う母の心は例え鬼になったとしても同じなんだと・・・・」

僕は彼女をその場に残し家を出た。そして母が歩んだであろう断崖への道を辿リ始める。あの時僕は振り返る事もなく車を走らせた。
そう・・振りかえることも無く・・・

たぶん、母は・・・・

母は僕の車の後を追ったに違いない。




「母さん・・・」

あの時は冷たい風が吹き始める初冬の島。冬の潮風を顔に当てながら僕を追ってきたのであろうか。ゴツゴツとした岩肌があちらこちらに見える断崖への道。目の見えない母がここまで来るには何度転んだことだろう。

「なんでだよ・・・なんで僕の後を追ったりしたんだ?最後の最後までチェ・ヨンナンだったらいいじゃないか。ユ・ジホを息子と認めない鬼のようなチェ・ヨンナンのままだったら・・・・ままだったら・・・・・」

崖の上でガックリと膝を折った僕は、両手を地面についた。母が踏んだであろうその土を握りしめ何度もその握った拳を地面に打ち付けた。



「オッパ・・・」


目の前に拡がる青い夏の海。そして雲一つない蒼い空。その海と空との境が涙で滲んでしまって良く解らない。僕の背中にそっと手を当てたタミ。静かに僕の背中をさすり始めた彼女の手のひらは、何処までも柔らかでそして温かだった。




























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Author:hana
韓国ドラマ【宮】をベースにした妄想話を綴っています。王道ありパラレルあり、風の吹くまま気の向くまま…

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