FC2ブログ

素直になれたら・・・35

「まるで、シンデレラ・・・」

どれくらい時間が経っただろう。
茶色のシミが出来たテーブルクロスをじっと見つめていたチェギョンは一人呟いた。
もう二度と逢うまいと思ったシン君に再び出逢ってしまった。彼の本当の心が何処にあるか分からず、あの時逃げるようにして出た宮殿。でも、彼の心は自分の所にあった・・・それを知った時、心から後悔した。もう一度彼の元に戻れるなら、どんな辛いことでも乗り越える、そう決心した筈だった。
弟のチェジュンの言葉に僅かに心が揺れ動く。
あの宮殿での出来事は夢ではなかったのか、シン君が私を愛していると言った言葉は明日になればすべて消え去ってしまうのではないか、すべては自分の妄想・・・・
キッチンから駆けだしたチェギョンは、寝室の扉を慌てて開けた。そこには紛れもなくスカイブルーのドレスが掛けたままになっている。

「夢じゃない・・・しっかりしなさい、シン・チェギョン。」

シルクのドレスにそっと手を添えて目を閉じた。
睡蓮の池でのテウンとシン君。
大広間での陛下とのダンス、そしてシン君とのダンス。
送られてきた車の中での彼の言葉。

「信じる・・・私はシン君の言葉を信じるわ。彼と一緒に生きていきたい。」

疲れたようにベットに倒れこむと、そのままチェギョンは目を閉じた。








*********************************









「さてさて、どう言ったらいいものか・・・損な役回りだよ、まったく・・・」

日もとうに上がった昼前、昔ながらの韓屋が多い住宅街を汗をふきふき、扇子で皺の多くなった顔を仰ぎながら一人の老人が上ってくる。雇い主の依頼とはいえ、この役割を出来れば引き受けたくないと思っている老人だった。滞っている家賃の催促は慣れたものだったが、今回の依頼はどうも相手には言いにくい。何カ月も家賃を滞納して、綺麗に住んでくれない住人であれば、すぐにでも退去を命じられるのだが、相手はきちんと支払いをしているし、まがりなりにも王室の人間。

「まったく旦那様の気が知れない。法外な額で貸すと思えば、今度は退去命令だ。それにしても・・・・・」

小さな韓屋の前で老人の足が止まった。

「おーい、上がらせてもらうよ、チェギョンさんは居るかね?」

ドンドンと庭に面する引き戸を叩く音に、ハッと目を覚ましたチェギョン。時計を見ると既に11時になっている。慌てて髪を撫でつけて、鏡をのぞくとベットから飛び降りた。

「す、すみません、大家さん。」
「なんだ?まだ寝ていたのかね?これだから若いもんは・・・」
「あ、あの何でしょうか?」

老人は手にしていた茶封筒から、何枚かの書類を出した。

「申し訳ないが、ここを退去してもらうことにした。」
「え?」
「店も勿論だが、期限は明日まで・・・だ。」

表情を変えずに淡々とチェギョンに説明する老人。

「そ、そんな・・・大家さん、契約の更新しましたよね、この間・・・」
「ああ、確かにした。チェギョンさんの申し出でね。だが、ここの地主が拒否したんだよ。この家はウチで管理しているが、もともとの地主は他にいる。なんでもここの土地を使うそうなんだ。」
「う・・そ・・・」
「この家に住み続けるって頑張っても構わないが、取り壊される家に居続けることも出来まい?」
「取り・・・壊し?」
「そうだ。ここに・・・・サインをして。」
「大家さん・・・・」
「申し訳ないとは思うが、チェギョンさん、貴方は宮のお人であろう?宮へ言えば住む所などすぐにでも提供してもらえるだろうて・・・悪く思わないでくれ。」
「あ、あの!地主さんてどなたなんですか?」
「イ・ヘイル様だ。」
「え?」
「このあたりの土地は勿論、建設業界ではそのトップを牛耳っているお方だ。ここをアンタと借りに来た、ほら何て言ったっけ・・・」
「テウンさん?」
「そうそう、彼も建設会社の社員だったな。」
「もしかして・・・」
「社員への恩恵だ。ヘイル様の息のかかっていない建設会社などこのソウルにはどこにもない。」
「・・・・」

サインされた契約書を大事そうにしまいこむと老人は腰を伸ばして庭に立った。

「明日までだから・・・運送会社が必要な時は私に連絡してくれてもいい。では帰るとしよう。」
「お、大家さん!あの・・・もしかしてテウンさんの建設会社の社宅もすべて・・・」
「もちろんヘイル様のものだ。会社の一つや二つ潰そうと思えばすぐにでも潰せるくらいの力をお持ちになっている。旦那様を怒らせるとそれこそ大変だよ。いや、良かったサインしてくれて、やれやれだよ。」

手を振って門をくぐり狭い路地を歩きだした老人。チェギョンは茫然としてその後ろ姿を見つめた。イ・ヘイル・・・どこかで聞いた名前だった。一体何処で?

「皇太后様のお言葉・・」

シン君とのダンスの後、皇太后様の前へ進み・・・・

「あ、あの時の韓服を着た方だわ・・・皇太后様に声を掛けられて・・・・最高長老・・・最高長老のイ・ヘイル・・・じゃ、隣にいた女性って・・・」

不安な気持ちを抑え、チェギョンは立ち退きが決まった部屋を力なく見渡した。








**************************************








「陛下、皇太子妃の詮議についてご報告をするため、最高長老イ・ヘイルが参内いたしております。如何なさいますか?」
「イ・ヘイルが?」
「はい。」

皇帝は母である皇太后の顔をチラッと見た。皇太后は小さく頷くとすぐさま席を立ち、隣の部屋にその姿を隠す。大きな咳払いをすると皇帝はそばに控える尚宮に合図を送った。

「お入りなさいませ。」

尚宮によって開かれた扉。韓服をきちんと着こみ、巻物を携えたヘイルが頭を低くしながら皇帝の前へと進んだ。

「御老体、毎日この暑さの中を御苦労。」
「はは・・・陛下に置かれましてはご機嫌麗しく、この年寄り安心して王族会を取りまとめることができます。」
「さて、今日はどういった用だ?」
「はい、昨日の殿下の妃選びの詮議のご報告をと・・・・」
「ほお・・随分と早い詮議であったな。」
「鉄は熱いうちに打てと申します。本日早朝から集まりまして詮議致しておりました。」
「なるほど。皇太子は鉄であるのか?」
「なんと・・・そのようなつもりはございません。」
「そうか、してどうなったのだ?」

ヘイルは大事そうに抱えていた巻物を恭しく皇帝の前へ掲げる。傍についていたコン内官はそれを受け取り皇帝の前で拡げた。

「なんと、白紙では・・ないか!一体どういうことだ?」
「陛下、これが王族会での詮議の結果でございます。最後まで殿下のお傍に残ったのは我が孫娘ではありましたが、どうも昨夕は殿下のお心が見えませんでした。突然の殿下のお戯れ・・・春暁宮様がいらっしゃるなど、予測もしませんでした。」
「・・・・」
「妃の条件は王族であること。見目麗しいこと。殿下をお助けするための教養を持ち合わせて居る事。純潔である事。婚歴がない事。そして相性・・・・・そうでございましたね。陛下も皇后様を迎えるにあたりこのような詮議のご経験はあるはずでございます。」
「・・・・」
「王族会としましてはもう一度詮議をしたいとの意見が多数ございました。殿下のお戯れも大概にしていただき真剣に妃選びをしていただきたいと存じます。」
「なるほど。」
「陛下に置かれましては、この事、殿下へお伝え願えれば幸いにございます。」

腰を低くして下がるイ・ヘイル。

「最高長老、して妃候補は誰だ?」
「はい、僭越ながら我が孫娘のみ。」
「ほう、それでは妃選びとはいささか違うな。」
「いえ、正当な手順を踏んでおります。」
「では、今回はどんな詮議のし方をするというのだ?またダンスでも踊らせるのか?」
「いえ、陛下。幸い、ベルギーの王室が我が国に表敬訪問されます。其の時、殿下のお傍に事務官として侍らせていただきとうございます。どんなに孫娘が殿下の手助けになるか、しかとお確かめください。」
「なるほど・・・わかった。」

皇帝の返答に満足げに笑ったイ・ヘイル。既に皇太子妃の座は我が娘のものと確信した様子が伺える。深くお辞儀をして執務室を辞すヘイルの背に皇帝は小さく声を掛けた。

「楽しみにしているぞ。だが対抗馬があるからこその妃詮議だ。」
「は?陛下、なにか?」
「いや・・・今回の事はマスコミにも知らしめておこう、それでよいな?最高長老。」
「陛下・・・・そうでございますな。国民の承認も得られやすくなります。御心使い感謝いたします。」

意気揚々と宮殿を出ていくイ・ヘイル。
執務室の隣の部屋から出てきた皇太后はくすくすと笑った。

「陛下、冗談を冗談にしないところ・・・流石です。さぁ、忙しくなりそうです。この母にすべてを任せてくれますか?」
「最初から其のつもりです、母上。」

ニヤッと笑った皇帝の顔。皇太后は巷で流行っているガッツポーズをとる。傍で控えるイ尚宮は思わず片手を口元へ運ぶのだった。
スポンサーサイト



- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -
07 09
プロフィール

hana

Author:hana
韓国ドラマ【宮】をベースにした妄想話を綴っています。王道ありパラレルあり、風の吹くまま気の向くまま…

コメント入力に関しましては、お名前と内容だけで大丈夫です。アドレスやPWは無用ですよ~

訪問者数
新着
☆彡カテゴリ☆彡
♪りんく♪
月別アーカイブ