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Story of Blue Empire 3

太宗の寝所からそう遠くない所。左大臣の執務室に護衛総官であるパク・ヨンボクが左大臣の前に膝まづいた。まだ宮殿の中は静まり返っており、夜明けを知らせるの太鼓の音も響いていない。ふと気がついたように立ち上がったヨンボクは、暑さで開け放たれた格子窓をあたりに警戒しながら下ろし、左大臣と向き合った。
「・・・・して、詳しく話せ。」
「はい、左大臣様。どうやら左大臣様の弟君様らが動いたようです。」
「なに?!」
「ムンジョン様、インジョン様が崇礼門の憲兵に指示を出されたようで・・・」
「そ、それで?」
「崇礼門から捕盗庁に届いた報告によりますと、片付けた・・・・と。」
「片付けた・・・だと?大君殿下を片付けたと申すのかっ!?」
「いえ・・・崇礼門の隊長からは宮殿にはびこる女たらしの奴らをを一掃したと・・・身柄は山中へ捨てたとの報告でした。」
「女たらし・・・・?」
「どうやら、忠寧大君殿下とは知らないようです。忠寧大君殿下は、右大臣の進言もあり陛下のお許しを経て南方を治めに行かれたましたが、南方には大君殿下が行かれる事は伝えていないようです。したがって到着が遅れているがどうしたことか・・などという問い合わせは宮殿には来ないでしょう。」
「・・・・そうだな。」
「はい。ましてやもし陛下が大君殿下を呼び戻しになって、南方を統治していないとお知りになったら激怒するでしょう。」
「途中で暗殺されたとはお思いにはならないか?」
「まずそれはないでしょう。陛下は忠寧大君殿下の剣の腕をよくご存知です。無法者のいる南方はいざ知らず、陛下のお膝元である漢城(ソウル)一帯で指示がない限りむやみに剣を抜く輩はいないでしょうから。」
左大臣は護衛総官のヨンボクを一瞥すると眉間に皺を寄せた。
「弟達は早まった事をしてくれた・・・・」
「左大臣様・・・」
「弟達は今の私の役職にも嫉妬している。自分達はもっと上を行きたいと思っているのだ。」
「もっと・・・上?でございますか?」
「そうだ。ご長男の譲寧大君殿下に取り入り、末は殿下を懐柔して政を手中に収めたいと思っている。今の陛下を懐柔する事は到底無理である事はお前にも解るであろう。私とて陛下に意見するときは、念には念をいれて陛下のご機嫌を損ねないように神経を張り巡らせて申し上げているのだ。それに妹である正妃様の存在も大きい。」
「はい・・・」
「妾腹の弟達とはいえ、私と血の繋がりはある。何か事を起こされたら、いくら正妃様の実家だとて無事では済むまい。ま、殺した相手がまさか忠寧大君殿下とは知らないのが幸いした。ご苦労であった。弟達には私から釘を差しておく。このこと他言無用。よいな?」
「畏まりました。」
護衛総官が執務室を退室したあと、左大臣は太宗の寝所がある方向を見つめた。
「陛下・・・・ご自慢の忠寧大君殿下はもうこの世にはおりません。いつその事実をお知りなるのか・・・先帝のお言葉どおり、ご長男を王世子に据え置けば良かったものを・・・・」



小さく呟く左大臣の執務室の上を音もなく走り去る黒い影が、太宗の寝所に滑り込んだ。宮殿の中庭にすえられている大太鼓が夜明けを知らせる音を響かせる。
「陛下・・・」
太宗が眠る寝台の影から低い声が発せられた。太宗は身じろぎもせず、ほんの少しだけ唇を動かす。
「話せ。」
「・・・忠寧大君殿下の身代わりが崇礼門で殺されました。」
「・・・して?」
「殿下は乞食に身をやつした模様です。」
「ほう・・・」
「・・・では。」
ふぅっと空気が動いて、もうそこには誰もいなかった。格子戸越しにいつもの尚宮の声が響く。
「陛下、お起きになられましたでしょうか?夜明けの太鼓が鳴っております。」
「ああ・・・今目覚めた。着替えを手伝ってくれ。」
「畏まりました。」
太宗は寝台に起き上がり、ほんの少し笑みを浮かべた。
「乞食・・・・とは・・・・な。」








もうもうと立ち上る煙の中に立つその女性は、まるで一輪の白い花を思わせた。誰にでも差し伸べるその白い腕が眩しく、ころころと笑う声はまるで銀の鈴のようだった。逆光になってその顔はよく見えないが、ジンはただならぬものをその心に感じた。
「殿・・・じゃなかった、おいジン、粥をくれるみたいだ。そういえば腹が減ったな。ソロお前はどうだ?」
「ああ・・・おっと其の前に・・・」
ぬかるんだ地面に両手を付くと泥の付いた両手を顔や髪に塗り付ける。
「こうしないと乞食のように見えないからな。服だけでは駄目だ。ほら豆ヒョンお前もやってみろ。」
「豆ヒョン?おいソロ。なんだその言い方は!仮にも俺はお前より年上だ。殿下がおっしゃるならまだしもお前には言われたくない。」
ウォニは怒ったように地面に手を擦り付けると其の手を泥で汚したソロの顔に塗りたくった。
「ウォニ!何すんだ!」
「お前が生意気だからだよ。背は小さくとも力は上だ!」
「なにを?」
「なんだこいつ・・・・」
取っ組み合いのけんかを始めたソロとウォニに構わずジンは、林の向こう側にいる女性から目が離せなかった。いつもなら自分達を制するジンが無関心なのに気付いた二人。ハッとしてジンの視線の向こうを確かめる。
「殿・・・ジン・・・まさか?」
「そのまさか・・かも!」
にやりと笑った二人は両手に泥を擦り付けるといきなりジンの顔に塗りこんだ。
「な、何をするっ!」
「ははは・・・ジン!何処を見ているんだ?」
「そうだそうだ!さてはあの娘に・・・」
「な、なんだと!!?」
二人に自分の気持ちを突かれたジンは、逃げ出す二人を追って立ち上がった。

「ねぇ・・・ちょっと!早く来て下さいな。冷めてしまうわよー!!」

再び女性から声をかけられ、動きを止めた3人は、大鍋の前へ他の乞食と一緒に神妙な面持ちで並んだ。一人は年を老いた使用人のような女性。3人に声をかけた女性は銀の鈴の声同様、とても可愛らしく慈愛の満ちた笑顔で、どの乞食にも分け隔てなく声を掛けていく。
「夕べは雨が降ってしまって心配したわ。お体は大丈夫ですか?」
「たくさん食べて下さいね。」
「何か仕事は見つかりましたか?」
「ごめんなさいね、毎日来れなくて・・・・」
いよいよジンの番になって慌てて顔を見られないように俯いた。
「新入り・・・さんかしら?背が高くていらっしゃるのね。どんな事情でこんな事になったのか解りませんが、3日に一度は此処へ来ますから、どうぞ生きる気力を無くさないでくださいね。」
木の椀に並々と注がれた白粥。差し出したその腕は華奢で指先の爪も綺麗に整えられている。膝まづいたジンは彼女の顔を間近で見る事ができず、薄桃色のチョゴリの紐にぶら下げられたノリゲを見つめた。水色の房と深い蒼色の宝玉、金糸で留められたそれは上品で彼女自身を物語っているようだった。そして彼女の体から発せられる花のような匂い・・・ジンは椀を受け取ると自分の姿が急に恥ずかしくなって、慌ててあとずさった。
「ありが・・・とう。」
「いいえ・・また、来て下さい。」
彼女を背にしてジンは急いで元の場所に戻る。胸の鼓動を抑えることも出来ずどう自分の心を処していいものかわからない。彼女から貰った白粥を一気に飲み干し大きく咳き込んだ。
「ゲ・・・ゲホゲホっ・・・・」
「兄さんよ・・・そんなに急いで食うんじゃないよ。腹の腑が驚いてしまうだろ?ほら、擦ってやるから・・・・」
「ああ・・・じいさん、恩にきる。」
「お嬢さんに一目ぼれしたな?」
「え?」
「伊達に年を食っているわけではないわ。だけど、ここに居たいならその気持ちは隠しておけ。ここに居るもんは、お嬢さんに惚れている。この年寄りもな。だからお嬢さんに指一本触れる事は許されない。暗黙の了解なんだよ。親しく話してもいけない。お嬢さんは、こんな乞食に平等に接してくれている。だからといって一人抜きん出たりしては駄目だ。」
粥を貰ったウォニとソロがジンと老人の傍にやってきた。
「ジン!誰だ?」
「ああ・・・ヒョン、今知り合った。」
「お前達は、兄弟かね?」
老人は、3人をそれぞれ見比べる。
「い、いや。本当の兄弟ではないよ。ただ、兄弟の契りを交わした仲間だ。」
「ほう・・・ではくれぐれもさっきの話兄貴分にも話しておいてくれまいか?」
「はい。」
ジンにそう言うと、老人は木の根元まで歩いて横になり目を閉じた。老人がこちらに背を向けたところでウォニはジンに耳打ちした。
「あまり知らない人と話さない方がいいのでは・・・」
「いや、大丈夫だ。それよりあのお嬢さんは何処の方だ?」
「ははは・・・それですか、やはり・・・ね。」
ウォニは傍で粥をすすり終えたソロに目配せをした。椀を下に下ろし、ウォニとソロはジンにもっと近づくような身振りする。ジンが体を二人に寄せると、ごくごく小さな声でウォニが話し始めた。
「あのお嬢さんは、この辺一帯の地主である両班のユン家の2番目のお嬢さんだそうです。」
「両班のユン家?」
「譲寧大君殿下が16歳の時、妃を貰う話が持ち上がった事、覚えていますか?」
「子供の頃だから・・・な。」
「譲寧大君殿下の妃として候補にあがり最終の3人に絞られた中にユン家の娘がいました。」
「えっ?じゃぁ、あの娘・・」
「いえ、1番目のお嬢さんです。しかし、入宮しなかった。」
「なぜだ?」
「ユン家が丁重に辞退したとも聞いておりますが、噂によりますと好きなお相手がいたとも・・・・」
「なに?」
「そのあと病死したと届けがございました。」
「病死・・・」
「実のところは心中だったそうです。その噂を耳にした後宮が難色を示し、ユン家の当主は官吏を辞退したとのこと。」
「・・・そう・・か。知らなかった・・・・」
ジンは、使用人と笑いながら大鍋を片付けている娘を汚れた髪の隙間から静かに見つめた。
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プロフィール

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Author:hana
韓国ドラマ【宮】をベースにした妄想話を綴っています。王道ありパラレルあり、風の吹くまま気の向くまま…

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