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WAVE~遥か遠い日々・・・最終話 





暗闇の中、一歩進む。
シーンと静まり返ったこの場所。
二歩進んだ。
凍えた体が暖まる。
あと、一歩進んだ。
ほんの少し明るくなった。

ただ、私は一人ぼっちだ。
いつも誰かが傍にいてくれたのに。
一人だ。

ほんの少し明るくなった空間に恐る恐る手を伸ばしてみる。
その時パッと辺り一面が白い光りで包まれた。
花のような良い香りの風が吹いている。
ずっとずっと此処にいたい・・・
そう思った。

ふと振り返る。
遙か彼方に、黒雲が押し寄せていた。
だけど、
その黒雲の向こうで誰かが叫んでいる。

なに?
どうしたの?
誰なの?

急に強い力で黒雲の方に引きずられて
私は、墨のような空気の中で漂っていた。

ひとりの老婆がにこにこ笑いながら
近づいて来る。

【まだこんな所にいたのかね】
【お婆さん・・・向こうから来た・・の?】
【ああ、そうさ。もう向こうには未練はないからね】
【未練?】
【やり残したことさ】
【・・・・】
【アンタは帰れ。まだまだ生きなきゃならないよ】
【生きなきゃ?】

墨のような空気が吹き飛ばされた。

誰?
手を握るのは誰?
痛いほど強く強く握るのは誰?

≪戻って来い!チェギョン!≫

チェギョン?
誰の事?
私?

≪戻りなさい!イ・チェギョン!≫

ああ、頭がガンガンする。
そんなに怒鳴らないで・・・
そんなに引っ張らないで・・・








「ジヌク、どうだ?チェギョンの様子は?」
「兄さん・・・・・意識さえ戻ってくれれば・・・ああ、それから母さんの葬儀すまなかった。全部兄さんに任せてしまって。」
「いや、そんな事は気にしなくていい・・・父さんとも久しぶりに話が出来たよ。父さんも随分歳を取ったな。」
「兄さん、此処へ戻ってこないか?ここ、釜山へ・・・」
「・・・いや、いい。韓国へ戻るとしたら私は妻が眠る済州島に行くよ。私の事は気にしなくていい。」

容態が急変したチソン達の母親は、3日前に亡くなった。病院を離れられないジヌクに代わってチソンが喪主を務めた。断絶していた年老いた父との和解。母の死が二人を結びつけたようなものだった。そんな中、一進一退のチェギョンの容態にすべての人々が疲れ果てていた。毎日が祈りの日々だった。

「貴方・・・この子が目を覚ましたら、なんて声をかけてあげればいいの?」
「ミン・・・」
「きっと怯えるでしょうね。また、私に何かされると思うでしょうね。」
「そんな事はない。」
「いいえ・・多感な時期を私はあの子の支えになるどころか、あの子の心を何度も踏みにじった。あの頃あの子は、私を本当の母親と思っていたからこそきっと・・・きっととても傷ついたに違いないわ。赦してもらおうなんて虫のいい事は言わない・・ただ、こうして傍に居させて貰えるだけで私はいいと思っている。」

ミンは、チェギョンの髪にブラシを当てた。ゆっくりゆっくりと言葉を掛けながら梳いていくその姿は、かつてシンをユルをチェギョンを心から愛していたミンの姿だった。







「シン・・・クリスマスが終わるわね。」

チェギョンにずっと付き添っているシンの体の事も考えて、一般病室に移したチェギョンの傍には、ジオンが用意したクリスマスツリーがさまざまな色のイルミネーションを灯してキラキラと輝いている。ジオンがシンの肩にそっと手を置くと、そんなジオンの手にシンは自分の手を重ね軽く叩いた。

「ジオン・・君にはいろいろと助けてもらったな。ありがとう。」
「そんなこと・・・当り前でしょ。友達、なのだから・・・」
「そう・・・だな。」
「どう?チェギョンさん?顔色も随分良くなったわね。」
「ああ・・・時々指先が少しだけ動くんだ。絶対目を覚ますって信じてる。」
「シン・・・私、貴方の傍に立つチェギョンさんに会った時からもう貴方を諦めていたのかもしれない。貴方達とてもお似合いだった。」
「ジオン・・」
「チェギョンさん、みんな待っているのよ。貴方は本当に誰からも愛される人なのね。」

シンの手の中にあるチェギョンの指にほんの少し力が入った。その一本一本がシンの掌をゆっくりと押していく。いつもの事だとシンはチェギョンの手を優しく握り返した。

「シン!?」
「どうした、ジオン?」
「チェギョンさんが・・・」
「え?」

長い睫毛がふるふると動いている。ゆっくり、ゆっくりと瞼がほんの少し開いた。

「チェギョン!?解るか?俺だ。シンだっ!」

彼女の額に右手を当てて、チェギョンの顔を覗き込む。ジオンはナースセンターへ走っていった。

「チェギョン、俺はここだ!ここに来い!」

更に瞼を開けていくチェギョン。シンは夢中で彼女の頬を撫でた。チェギョンの唇がほんの少し開いて懸命に何か言おうとしているが言葉にならない。シンはそんな彼女の唇に自分の唇を少しだけ触れさせて笑った。

「帰って来てくれた・・・チェギョン、帰って来てくれた!」
「・シ・・・・・ん」

ほんの少し頭を動かして懸命にシンを探すチェギョン。やがてシンを見つけたその瞳が揺らめき一筋の涙が零れ堕ちた。

「チェギョン!チェギョン!・・・愛してる、もうどこにも行かせない。お前はずっと俺と一緒だ。」

ジオンから連絡を受けて、転がるように走ってくるチソン、ジュン。
思わずヒョンの胸の中で泣きだすミン。
ヒジンのペンダントを握り締めたテハン。

チェギョンの軀をそっと上から抱くシンの大きな背中には、星のように瞬くツリーの灯りが落とされていた。











寄せては返す波。
どれとして同じ形はない。
時折大きな波が来ては全てを押し流し、
押し流された僅かな貝殻の欠片をまた此処へ押し戻す。

キラキラと光る波をじっと見つめながらゆっくりとサンダルを脱いで、波打ち際に向かって歩き出した。
全ては通らねばならなかった道だったのだ。
辛く、苦しく、哀しい道。
もしかしたら途中で外れてしまってもよかったのかもしれない。
だけど、敢えてそれを彼はしなかった。
自分の心に正直に・・・
愛し貫く。

白く泡立つ波に素足をさらしてその心地よさに目を閉じた。

幼き日、私達はここで出逢った。
父に母にそして兄に守り守られ、愛し愛された日々。
楽しく、それでいて懐かしい時間。

私が戻ってきたあのクリスマスの夜、父も母も泣いていた。そしてチソンおじ様もジュン兄も。
シン君はただひたすら私の頬を優しく撫でていた。いつまでも、いつまでも。
全てを明らかにしてくれたチソンおじ様。とても辛かったに違いない。父も母も・・・そして私の本当の父も。
赦しを乞う母の姿がとても小さくて儚げで、私も泣いた。
これは運命なのだ。
誰も責めたりしない。
誰も咎めたりしない。



「ママっ!見て!」
「あらっ?綺麗ね。ジュリは貝殻を拾うのが上手ねぇ・・・」
「でしょ?私、お兄様より上手いんだからっ!」
「かあ様!」
「あら・・・ジュノどうしたの?むくれて・・・折角のハンサムさんが台無しよ。」
「ジュリが先に取っちゃうんだ。僕が先に見つけたのに!」
「ふふふ・・・そうかぁ。ね、ママは仲良しジュノ、ジュリが好きなんだけどなぁ?」
「「う・・・」」

5歳になる双子の兄妹は、思わず俯いた。

「だけど、喧嘩さんの二人もママは大好きよ!」

両手を拡げて二人の子供たちをギュッと抱きしめる。
満足そうに笑いあう兄妹。

「ママ、また取ってくるね。一番綺麗なの飾ってくれる?」
「いいわよ!」

キャーキャーはしゃぎながら波打ち際を走る子供達。そんな子供たちを微笑みながら見つめるチェギョンの背中に近づいたシン。彼女の腰へと両腕を差し入れて優しく抱きしめる。

「ここは一番落ち着く所だな・・・」
「そうね、大好きよ。」
「ははは・・・俺が、か?」
「違うわよっ!済州島が・・・よ。」

振り返って花のように笑うチェギョン。シンはそのまま背を屈めて彼女に口付けをした。

「・・・懐かしいな。俺達もああやって此処で遊んだ。」
「そうね、もうずっとずっと昔のことなのに・・・鮮明に憶えているわ。私、この波の音が大好きだった・・・」

潮風が心地よく吹き渡っている。
シンとチェギョンの足元には優しい響きを奏でる波がいつまでも打ち寄せていた。


「愛してるよ・・・チェギョン。」

「私も愛しているわ、あなた・・・」





あの遙か遠い日々に、想いを馳せて・・・・遙か遠い日々に・・・
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Author:hana
韓国ドラマ【宮】をベースにした妄想話を綴っています。王道ありパラレルあり、風の吹くまま気の向くまま…

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