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Lightning・・・17

済州島へ来て一週間が過ぎようとしていた。

食事は全てシンと一緒にリビングで摂り、午前中は皇太后の話相手、昼食後はシンの希望でチェ尚宮からお妃教育なるものをいやいやながらも受けていた。夕方はダンスの練習、立ち居振る舞いの練習で、唯一自由になる時間は夕食の後の就寝前のひと時だった。
シンの真向かいに座る食事の時間は、チェギョンにとって常に神経をすり減らす時でもあり、事あるごとにマナーがなってないだの、食べ方が汚ないだの、いちいち文句を言われて、彼女としてみれば爆発寸前であった。


「小さい頃から、ナイフとフォークを持って食べていた人なんてそうそうこの韓国にはいないわよっ!何処へ行ったってこの箸とスッカラがあれば充分じゃない。あっ!それとどうしてキムチがないのよっ!」


ついにこの日、デザートのスプーンの使い方を間違えたチェギョンはシンに詰られた。

「お前は王室の人間になるんだ。いつかは海外にだって公務で行くことになる。行った先で恥をかくのはお前だ!」
「違うでしょ?シン君が嫌なだけじゃないっ!私はね、好きで此処に来たんじゃないですから!2ヵ月が過ぎたら・・・」
「2カ月が過ぎたら?・・・2カ月が過ぎたらどうするつもりだ?」
「・・・・」

テーブルをバンと叩いてナプキンをその上に置くとチェギョンは駈け出した。ベットルームに飛び込むと勢いよくドアを閉め鍵を掛ける。
いつものパターンだ。しかし今日は違っていた。

「この、シン・チェギョン様がここでヘコタレるなんて事はあり得ないわよ。見てなさい、イ・シン!」

クロゼットの一番奥にあったポシェットを持ちだすと、チェギョンはその中に財布を押し込んだ。

「ソウルへ戻るくらいはあるんだから。もし見つかったとしても軽装だったら浜辺の散歩とでも言い訳は何とでも言えるわ。廊下には護衛がいるから出られない。まさか二階から脱出するなんて誰も考えないでしょうね。椰子の木がバルコニーに引っ掛かっているし、そこに飛び移れば・・・・・」









チェギョンは部屋の灯りをいつもの時間に消すと、そっとバルコニーに出た。今日は新月で月の光もない。半月状に張り出したバルコニーの手すりによじ登って椰子の木に飛び移ろうとした時だった。

「お前、何してんだ?」

隣の同じように張り出したバルコニーから手すりに持たれて自分を見ている人間がいる。

「へ?」
「そんな所に登ってお前、ブタの次は猿か?」

「な、なんでそんな所にいるのよ!」
「それは愚問だ。ここは俺の部屋のバルコニーだ。俺が何処に居ようと俺の勝手だろ?」

「・・・・」
「・・・・お前・・・お前まさか!」

「ち、違うわよ。誰が逃げるもんですか。」
「ふふん、俺は逃げるのかなんて聞いていないぞ。シン・チェギョン!」

「し、しまった・・・って、えっ・・えっ・・・えっ・・・・・」

大きくバランスを崩したチェギョンが手すりの上で体を揺らした時だった。



「キャーっ!!」   ≪ドサッ!≫



えっ?
な、なに?私、落ちたんじゃ・・・・・・

「お前・・・・・この、馬鹿が!」

チェギョンの体を抱えて倒れているシンが呻った。
チェギョンの部屋との仕切りを超えてチェギョンの部屋のバルコニーに咄嗟に飛び移ったシンは、体勢を崩したチェギョンの体を抱え込み危機一髪で落下を防止した。

「シ、シン君・・・・」
「明日の記事に載ったらいい笑い物だ。『皇太子の許婚、脱出を試みてバルコニーから落下、死亡・・・』なんてな!」
「し、死亡・・・なんて酷いじゃない!」

「じゃ、『骨折で入院』か?おい、どけよ・・・・」
「ご、ごめん・・・・」

チェギョンは慌ててシンの膝の上から降りた。

「全く、お前何考えてんだ?」
「何って・・・何も・・・・」

シンは大きく溜息をつくとチェギョンの顔を覗いて言った。

「まさか、ユルと会う約束でもしていたんじゃないだろうな。」
「えっ?」

「今日、ここへ来た。来たからには皇太后様に御挨拶をしないとな。いくら側室の孫で血が繋がっていなくとも、順からすると皇太后様はアイツの祖母に値する。アイツなりに礼節は肝に銘じているようだ。」
「ユ、ユル君が?こ、ここに来たの?」

チェギョンの懐かしい人を思い出すような柔らかな笑顔に、シンは押し黙った。


あれからずっとユル君に会えなかった。
到底許してもらえないとは思うけど、シン君の許婚だったって事を話していないわ。まるで、シン君との事があったからユル君とサヨナラしたなんて思われたくないし・・・・


「きゃっ!な、なにするのっ!」


チェギョンの体を抱き上げたシンは、そのチェギョンの体を事もあろうかバルコニーの外へ押し出した。

「な、何やっているの?やだっ!ちょ・・・ちょっと落とす気?」
「ああ、その気だ・・・としたらどうする?」

「嘘っ!何考えているのよ!も、戻ってよ、は、離してっ!」
「離して?じゃ、お前は下に落ちるだけだ・・・・」

「ち、違うっ!」

シンはバタバタ暴れているチェギョンをそのままに、無表情で夜の闇を見つめた。

「このまま・・・・落とそうか。どうせ逃げる気なんだろ・・・・俺から・・・・」
「やだっ!戻して!」

「俺は誰も必要としていないし、今、お前がユルと会ったって別に何とも思わない。」
「シン君!やだっ!」

「いい迷惑なんだよ。よっぽどヒョリンと一緒の方がマシだったな・・・・楽だったし・・・」
「ヒョリン?ヒョリンって誰?」

「・・・・お前よりずっと美人で頭もいい。スタイルだって・・・・」
「だったら・・・・だったらどうしてそんな彼女がいたのに、なんで私を許婚なんかにしたのよっ!」

「・・・さあな。うるさいなぁ・・・・このまま落として終りにするか?」
「や、やだっ!」

冷え切ったような瞳のシン。


本気だ。
シン君、本気で私を落とそうとしてる!
た、助けて!
助けて!


「た、助けて・・・ユル君・・・・」

震えながらチェギョンが呟いた言葉。シンの心の中に黒い何かが一滴落ち、大きな波紋となって拡がった。

「・・・お願いしますって言え。」
「えっ?」

「もう二度としないからごめんなさいって言え。」
「・・・・」

「・・・・ないんだな、じゃ・・・」

シンは今の位置よりも外へチェギョンを抱いているその腕を大きくせり出した。

「落とす・・・ぞ。」

シンの心も凍るような低い声に、チェギョンは思わずシンの首に両手を回してしがみ付いた。

「ご、ごめんなさい。もう二度としません。お願い・・・・・」

チェギョンの洗い立ての髪がシンの鼻先で香った。

シャンプーの香りだろうか。
ヒョリンと肌を重ねた時に、髪の香りなど気にも留めなかった。
ただ、彼女がつける香水やルージュの香りが強すぎて、幾度となく気分を害したことがあっただけだ。


いい香り・・・だ。


思わず唇をその髪に寄せた。

「・・・・シン君。お願いします・・・・」

耳元で、消え入りそうな声で呟くチェギョンの声。シンは我に変えると、乱暴にバルコニーにチェギョンを降ろし慌てて言い放った。

「に、二度と馬鹿な事を考えるなっ!ゴシップネタになる。怪我して醜い顔になった皇太子妃なんて話にならないっ!」
「えっ?それって私は醜くないってことよね・・・・いつもブスだのブタだの言うじゃない・・・」

「う・・・」

スカートの裾を払って、真顔でシンを見つめながら言うチェギョンの言葉に、シンは詰まった。

「結果的にはバルコニーから落ちるのを助けてくれたのよね。シン君・・・」
「そ、それは・・・」

「皇太后様もおっしゃっていたけれど、本当は優し・・」
「もう、遅い。二度と逃げようなんて事は考えるな。護衛を倍にしておく。」

「嘘!」
「じゃあな、猿!」

シンはチェギョンのベットルームを通り抜けると自分の部屋に戻っていった。



脱走に失敗しちゃった。
だけど・・・
アイツ・・・
・・・・・・・・助けてくれた。


イ・シン。貴方って・・・・・・
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Author:hana
韓国ドラマ【宮】をベースにした妄想話を綴っています。王道ありパラレルあり、風の吹くまま気の向くまま…

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