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山路が笛・・・13

シンは、助手席に座って夢心地に窓べに頬杖をつき、外の風景を眺めているチェギョンの横顔を、時々チラッと見ながら運転していた。
出掛けに急いで化粧をして来たのだろう。
うっすらと淡いピンク色のルージュが引かれている、そのツンと突きだした可愛らしい唇が、時々何かを言って、ムニュムニュと動いてる。
最近はマスカラや付け睫毛などにご執心な女性が多い。しかし、彼女の睫毛は何の手を加えなくとも充分長く、そして・・・とても・・・綺麗だ。

アメリカにいた頃の自分。
常に女子学生が自分の傍に纏わりつき、一々気に掛けるのも億劫で、適当にあしらってきた。
どうせ、寄って来るのは本国からの留学生や上流階級のアメリカ人。
イ・シンという人間ではなく、イ・グループ総帥の孫という甘い蜜に寄って来る虫のようなものだ。自分を売り込むその涙ぐましい努力。女達には金を無心する心はあっても愛を乞う心はない。
ユルは、言っていた。

「愛なんて関係ない。今を楽しめばいいじゃないか。どうせ、本国に帰ったらそれ相応の令嬢と結婚だ。僕はそれでもいいと思っている。今の暮らしの質を落としたくないし、もっと上を目指せるかもしれないからな・・・・」

俺達の生活の質の向上の為に、弱い人間が酷い生活を強いられている。ユル、お前はそれを知ったところで笑い飛ばすに違いない。

「シン、お前貧乏人の味方か?」

お前と俺は、随分考え方が違ってしまった。

チェギョンは俺の正体を知ったらどうするだろう。
イ・ソンギの孫だと知ったら・・・・・
この俺自身ではなく、イ・グループの名声と金に心奪われるか?
今までの女達のように。

それとも・・・

「ね、見て見て!ソウルタワーが光ってる!ふーん・・・・此処からだとこんな見え方するのね!」

いきなり歓声を上げると、まるで小学生のように夢中になってフロントガラスからソウルタワーを見上げるチェギョン。

『何がそんなに可笑しいんだ。いつも見慣れているじゃないか。』

そう言おうとして、ふと、一生懸命見上げるチェギョンの真剣な横顔に俺は笑ってしまった。
長い睫毛を瞬かせて・・・・
一喜一憂している彼女の姿が至極自然で・・・・
媚びた所など微塵も感じられなくて・・・・


彼女に限って・・・・そんな事はない。






南山トンネルをくぐり、通行税を払うと、シンは市場にほど近い駐車場に車を止め、助手席のドアを開けるとチェギョンを降ろした。

「チェギョン・・・・何が欲しい?」
「えっ?ちょっと・・・・本気なの?」
「ああ、ホワイトデーのキャンディだっていいが、食べると無くなってしまうだろ?それじゃ嫌なんだ。」
「・・・・・」
「形のあるものをお前にあげたい。ただし、薄給の俺だ。値の張るものは買ってあげられない。ごめんな。」

申し訳なさそうに呟くとチェギョンを愛しそうに見つめた。シンの自分を愛しむような視線にチェギョンは慌てた。

「い、いいわよ。チョコのお返しなんでしょ?義理チョコなんだし、そんなに気にしないで。わ、私だって貴方の今の生活が手一杯だって解っているわ。じ、自分だって、そ、そうだし・・・・・」

シンの視線に耐えきれすチェギョンは恥ずかしそうに俯いた。

「全く・・・・お前って欲が無いんだな。この俺がお前に告白したんだから、もっと偉ぶっていいんだぞ。俺はお前の言いなりになるしかないのだから・・・チェギョン。」

そ、そんな事急に言われたって、困ってしまう・・・・
ホントにこの人は私の事が好きなの?
ここまで来てまさか『ビックリだ!』なんて言わないでしょうね。

「そ、そうね・・・・・何か小物でも・・・・洋品店あたりを見てみたい・・・」
「わかった。洋品店・・・か。だったら知り合いが店を出しているからそこへ行こう。週末で混んでいるから迷子になるなよ。」
「大丈夫よ!子供じゃあるまいし。しっかり後をついていくから。」

チェギョンは握りこぶしを胸の前で作るとガッツポーズをする。シンはそんなチェギョンを見てクスッと笑うと市場に向ってその長い脚を踏み出した。






東大門市場は思った以上に酷い混みようだった。いくつもの露店が道路にはみ出すように並べられ、品物も山積みになって、それを品定めする大勢の客達で道路は溢れかえっていた。
背の高いシンは、人々を必死で掻き分けて歩くチェギョンにとってある意味目印にはなったが、それでも多くの人々の波に呑まれて、危うくその後ろ姿を見失いかけた。

「どうしよう・・・・・・・・きゃっ!」
周りの人々が、ウロウロするんじゃないって言う顔をして、チェギョンをどんどん追い越していく。

「ね、ちょっと・・・・・・待って。ちょっと・・・・・」
シンは知り合いの店を目指してどんどん先へ行く。

「ま、待って・・・待って・・・行かないで・・・・・・」
とうとうチェギョンは、中年の男性2,3人にその視界を遮られてしまった。


「シン君!シン君!・・・・・行かないでっ!シン君!!!」


チェギョンは思い切り大声でシンの名を叫んだ。
前を歩くシンの歩みが止まる。後ろを振り向いてチェギョンを探しているようだった。


「シン君!!ここよ!」


両手を挙げてチェギョンはシンを呼んだ。くるりと踵を返すと人の波を掻き分けて、流れに逆らうように、シンはチェギョンの元へやって来た。

「なんだ、はぐれちゃ駄目だって言ったよな。」
「だって・・・凄い人なんだもん。」

人に押されながら、チェギョンはほんの少し涙ぐむ。

「ほら・・・」
「えっ?」
「手を握れよ。」
「だ、だって・・・・」

シンは躊躇するチェギョンの左手を右手で掴むとしっかり握った。

「・・・・さっき俺の名前を叫んだだろ?」
「えっ?だ、だって≪ちょっと!≫ってだけじゃ、気付いてくれなかったでしょ?」

シンはチェギョンの手を握りながら歩き出した。

「・・・・いいよ。」
「何が?」
「俺のこと『シン君』て呼んでも。もっともそう決めたのはお前だ。」
「私?」
「あのダンスの時、俺の事をやたらに『シン君』呼ばわりしていた。」
「あっ!・・・ご、ごめん。貴方、年上だった・・・・」
「だから、いいよ。『シン君』で・・・」
「・・・・・・」

なんでこんなに今日は優しいんだろ。
もしかしてこれって夢?
…にしては大っ嫌いな筈の彼が、こんなに私の夢を占領しているなんてありえない!
意地悪の王子様が一夜にして素敵な王子様に変身したの?
あの童話のカエルのように・・・・・お姫様にキスを強要して、壁に投げつけられて、魔法が解けて・・・・・素敵な王子様・・・・

「着いたぞ!」

シンが急に止まる。
考え事をしていたチェギョンは、シンの背中に思いっきりぶつかった。

「なんだ?また・・・・・お前、何か妄想してただろ!」
「ち、違うわよっ!」
慌ててむくれるチェギョンにシンは笑うと握ったままの手を掲げて店を差した。
「ほら、ここだ!」
「うわっ!凄いっ!」
店の天井まで溢れかえるくらいうず高く積まれた衣料品の数々。


「おやまぁ!また来てくれたんだね!今日は彼女連れかい?」
店の中から中年の女性が満面の笑みを浮かべてシンの肩を叩いた。

「知り合い・・・なの?」

チェギョンは女性に軽く会釈をするとシンを見上げた。
「ああ、アルバイト先で世話になっている人の奥さんだ。」
「へえ・・・・」
シンはチェギョンの背中をポンと押して言った。
「好きな物、選んでいいぞ。ここは俺の給料でも買える店だ。」

「おや、随分な事をいってくれるねぇ・・・・安物ばかりって言いたいんだろ?」
店主の女性はシンの背中を遠慮なしに叩く。
「お嬢さん、いいからいろいろ買って貰っちゃいな!お金が足りなかったら、亭主に頼んでしっかり給料日にはこの人から戴くから大丈夫だよ!」

「はは、全く、おばさんには敵わないな・・・・」
「ほんとにいいの?・・・・・ホワイトデーの返事はノーかもしれないわよ。」
「大丈夫だ。絶対ノーとは言わせない・・・」
「えっ?」
シンは柔らかい笑顔をチェギョンに向けると店の入り口の椅子に腰を下ろした。
「どうせ、時間はたっぷりあるんだ。ゆっくり見ておいで・・・」

「・・・・わかった。」

チェギョンは果敢にも、うず高く積まれた衣類の中に入っていく。チェギョンが悪戦苦闘をしている間、シンは店の入り口で腕を組んで辛抱強く待っていた。店主の女性がシンを見て笑った。

「可愛らしい子じゃないか。あの子がそうなのかい?亭主が言っていたよ。アンタにはきっと素敵な恋人がいるって。」
シンは恥かしそうに俯くと女性に言った。
「まだ・・・なんだ。やっと告白したばかり。いつも親父さんにはどやされるけど上手くいかない。」
「しっかりしなよ!絶対握った手を離すんじゃないよ。」
「ああ、分かってる・・・・」



洋服の山から何かを見つけてチェギョンは満面の笑みで其れをシンに見せた。
「これがいいわ!」
彼女の手には真っ白な毛糸の帽子が握られている。
「これで、6000ウォンなんて信じられない!毛糸玉よりも安いのよ。このアラン編みだって凝っているのに・・・」
「チェギョン・・・そんなのでいいのか?」
「ええ、いいわ。・・・・凄く気に入ったの。」
チェギョンは傍に置いてある鏡を覗き込んでその帽子をかぶったり外したりしている。

「ちょっと、待ちな。」

女性は店の奥に行くと何やら手にしてやってきた。チェギョンと同じような編み方の帽子だが色はライトブラウンだった。
「いくつかそれにはお揃いがあったんだが、これしかなくなってしまってね。でも、多少色は違ってもペアのようだよ。二つで8000ウォンでいいからこっちも持って行きな。」
女性はチェギョンの手にその帽子を押し付けた。

「ぺ、ペアだなんて・・・・」

慌てるチェギョンに店主はウィンクした。
「お嬢さん、この人は大丈夫だ。一緒に仕事をしている亭主がいつも褒めている。間違いない。幸せになんなさいよ!」
「お、おばさん。わ、私・・・ま、まだ・・・・」

慌てたチェギョンは、どう説明していいか言葉に詰まる。シンはそんなチェギョンをしり目に8000ウォンを財布から出すと女性に握らせた。

「・・・これ、8000ウォン。おばさん、ありがとう!」

シンは、チェギョンの手から買ったばかりの帽子二つを奪うと、ライトブラウンの帽子をなんの戸惑いもなく被った。

「あったかいぞ、チェギョン。お前も被れ。」

シンは、白い帽子を無理やりチェギョンに被らせると、その手を握って嬉しそうに歩き出した。
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Author:hana
韓国ドラマ【宮】をベースにした妄想話を綴っています。王道ありパラレルあり、風の吹くまま気の向くまま…

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