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FATE・・・1

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運命なんて信じない。
自分の人生は自分で切り開いていくものだ。
その先にはきっと素晴らしい未来が待っているはず。
そう、素晴らしい未来が。





「えーっ!?またその格好で行くの?チェギョン」
「ええ、そうよ。ね、ガンヒョンいつものように宜しくね」

「まったく…もうどうなっても知らないから」

長く連なった街路樹にクリスマスイルミネーションが輝く清潭洞の一角。綺麗にライトアップされた会員制のクラブの入り口にタクシーで乗り付けたチェギョンとガンヒョンの二人は、ハイヒールの踵を大きく鳴らしてクラブの階段を下りていった。ほんの少しガンヒョンに目配せしたチェギョンは階段の中央付近で立ち止まり、ガンヒョンが先にフロアへ降りたのを確かめてからゆっくりと片手を腰に当て、もう片方の手でまっすぐに伸びた金色の髪をわざと大仰に掻きあげる。

「やぁ、いらっしゃい。ここ初めて?」
「いいえ、二度目かしら」

「たしかチェギョンだったよね」
「ええ、そうよ。名前を覚えてくれていたなんて光栄だわ」

「さあさあ、お嬢様のお通りだ」
「あら私、お嬢様なんかじゃないわ、ふふふ」

フロアに降り立ったチェギョンの回りにたちまち若い男達が群がった。そんなチェギョンの様子を横目に見て、ガンヒョンはカウンターに座っている手持無沙汰の女の子達に声をかける。

「ね、知ってる?あの子のこと、あの金髪の…」
「ええ、知っているわ。チェギョンって言うんでしょ。男漁りが趣味みたいよ。あんな子が清潭洞に出入りしているなんて許せないわ」

「男漁り?」
「そうよ。貧乏人のくせに下品に着飾っちゃってあちこちのクラブを渡り歩いて、回りに群がる男の子達の値踏みをしているって噂よ」

「値踏み?」
「だってここ会員制のクラブじゃない。上流階級の者しか入れない場所なのにどうして入れるのか不思議だわ。ああ、きっとパトロンがいるんじゃないかしら」

女の子達の言葉にガンヒョンはクスリと笑うとカウンターの上に身を乗り出して、女の子達に言った。

「私ね、あの子の正体知っているの」
「え?ほんと?」

「韓国の通信網を握るシングループって知ってる?」
「ええ、知っているわ。5本の指に入る財閥よ」

「そこの一人娘」
「嘘っ!あんなアバズレが?」

「そうなの、酷いわよね。お兄様がいらっしゃる方ここにいるかしら。もしかしたら近い将来どなたかの義理のお姉様になるかもよ~」
「……」

顔を引きつらせてフロアの真ん中にいるチェギョンを睨めつける女の子達。ガンヒョンは、首を竦めてその場を離れると、携帯を取りだした。

「チェギョン、終了よ」
≪OK≫

「上手く出られそう?」
≪大丈夫、すぐ行くわ≫

クラブを出たガンヒョンは、冷たい風に首を縮ませながら急いで通りに出た。そこで流しのタクシーを捕まえチェギョンを待つ。

「なんだってこんな面倒臭いことチェギョンはするのかしら。悪い噂ばかり一人歩きするじゃない。そりゃ、人生の伴侶は自分で探すのが一番だけど、絶対におじ様は許してくれないわ」

金髪のカツラを外しながらこちらに走ってくるチェギョンを見つけたガンヒョンは、大きく溜息をついてタクシーの窓を開け手を振った。









「グレイス、そこの金モール取ってくれないかしら」
「はい、シスターキム。これでいいですか?」

「ええ、ありがとう。毎年グレイスが来てくれるから助かるわ」
「私もお手伝いが出来て嬉しいです」

ソウルの街外れの小高い丘の上にある教会にチェギョンはいた。病弱の母が亡くなったのはチェギョンが10歳の時。葬儀はこの教会で行われチェギョンはその時洗礼を受けグレイスという名を享けた。併設されている孤児院の子供達と大きな樅の木にクリスマスの飾り付けを行うことは、チェギョン自身の喜びでもあり、亡くなった母を近しく感じられる時でもあった。

「ね、グレイスお姉ちゃん。今年はなんのお歌を唄ってくれるの?」
「そうねぇ、ヨンはなんのお歌がいいのかなぁ?」

脚立の一番上に昇って、樅の木のてっぺんからイルミネーションを器用に絡ませていくチェギョン。

「うんとね、うんとね」
「クリスマスまでまだいっぱいあるからよく考えて、ヨン」

「わかったぁ!」

飾り付けを終えて脚立から飛び降りたチェギョンは、5歳になるヨンの柔らかな髪を撫ぜて微笑んだ。

「随分お転婆なシスターだな」
「え?」

教会の扉の前に男が立っていたが西日で逆光になり顔が良く見えない。背はかなり高いようだが、からかう様な言い方にチェギョンはいささかムッとした。

「余計なお世話です。これくらいできないとツリーは飾れませんから。ヨン、さぁ行きましょう。バザーの準備がまだだったでしょう?」
「うん、グレイスお姉ちゃん」

男の前をチェギョンはヨンの手を引いて俯き加減で歩く。

「ちょっと、待て!」

男がいきなりチェギョンの腕を掴んだ。

「な、何をするんですか!」
「グレイスさん?そう怒らないで。院長のところへ案内して欲しいんだけど。」

「院長先生?」
「そう」

「わかりました。後ろからついて来てください」

男の腕を振り払いヨンの手をしっかり握ったチェギョンだったが、チラッと仰ぎ見た男の顔に一瞬戸惑った。落ち着いた声のわりには驚くほどその容貌が若いのだ。もしかすると同じくらいの歳だろうか。身につけているものは、チェギョンが知るかぎり上質なものだ。

「ここです、どうぞ」
「ありがとう、シスター」

扉をくぐるようにして入っていった男の大きな背中を見つめるチェギョン。パタンと閉じられた扉にチェギョンはハッとして我に返った。

樅の木のヤニで汚れたデニムのオーバーオール。
捲りあげられた薄汚れたトレーナーの袖。
ひっつめてポニーテールにした髪。
化粧っ気のない顔。

「シスターと間違われたわ」

怪訝そうな顔のヨンの前に屈んだチェギョンは、彼の髪を撫ぜながら父ナムギルから言われた言葉を思い返していた。

出来るならば娘の幸せを一番に考えたい。
しかしながらグループの事を考えるとそうもいかないのだ。
いずれはグループを任せられる釣り合いのとれた男と…

「釣り合いがとれたって心が動かなくちゃ嫌なのよ…私自身を見ないでグループだけを見るような男じゃ駄目…」
「お姉ちゃん?どうしたの」

「ごめん、ごめん、ヨン。さ、やろうか!」
「うん!」

篤志家から頂いた品々に子供達と共に丁寧に値札を付けていくチェギョン。それと今年はシスターキムからの提案もあって早くから準備してきた手作りの品々があった。

「グレイスお姉ちゃん、これ売れるといいなぁ。だってとってもいい匂いするんだもん。」
「そうね、ミヨン。頑張ってたくさん作ったものね」

「うん、お花をうんとたくさん育てたもん」
「そうそうセジュもね」

蝋の中に紫色のラベンダーの花が浮かんでいるアロマキャンドル。これを一つ一つ子供達と手作りしてきたチェギョンだった。

「さぁさぁ、みんなそろそろ夕食の時間ですよ。グレイス、もうお帰りなさい。とっくに日は沈んでいるわ。だいぶ寒くなったから気を付けてね」

ホールに入ってきた院長とシスターキム。子供達は目を輝かせながら食堂へと走っていく。チェギョンはオーバーオールをパンパンと叩くと、毛糸の帽子とマフラーを手に取った。

「お客様はもう帰られたんですか?院長先生」
「ええ、先程ね」

「そう、ですか」
「何か気になることでも?」

「い、いえ」

帽子を眼深に被ったチェギョンは、教会の扉の前に進んで再び院長に頭を下げた。

「グレイス」
「はい?」

「お父様から何か話がありましたか?」
「え?」

「貴方の将来について、です」
「・・・」

チェギョンは無言のまま扉に手を掛けてゆっくりと開いている。ひんやりとした夜の空気が躰に纏わりついた。

「グレイス」
「…院長先生、私まだまだ子供達と一緒にいる方が楽しいし幸せなんです。それに此処には母が眠っている」

「グレイス、お父様の事も考えて、、」
「では、失礼します」

マフラーを押さえて教会の坂を小走りに下っていく。ほんのりと吐く息が白く色づいた。
充分解ってはいた。
グループの将来は自分にかかっている。
母が亡くなって以来、父の自分への溺愛ぶりはかなり加速されていた。どんなにお金を使おうとどんなに友達と遊び呆けていようと全ては将来の為になるのだと許されてきた。
しかし、ただ一つ許されなかったのは、結婚相手。

大通りに出て、バスの停留所に向かう。江南にある家に帰るのにお抱え運転士を呼べば済むことなのにあえてそれはしない。父への僅かな反抗なのだ。

真っ暗になった歩道をチェギョンは、俯き加減で歩いていた。舗装されていない道は歩くたびに砂利に脚をとられ転びそうになる。薄明かりの付いたバス停にたどり着くとチェギョンは、壊れかけたベンチにゆっくりと腰を下ろし携帯を手にした。

「もしもし、ガンヒョン」
≪チェギョン…ああ、明日の事ね≫

「そう、ごめんね。またお願い」
≪全く!この親不幸者≫

「だって…」
≪はいはい、わかりました。また同じように相手を観察したいんでしょ。相手の本質を見るには一番かもしれないけど≫

「ガンヒョンだけが頼みなの」
≪ま、ある意味参考にはなるけどね。じゃ明日≫

「うん、じゃ」

携帯をバックにしまい、胸元に抱え込む。
父親が決めた相手と逢うのは次で三度目。
堅苦しい逢い方は嫌だと父親に言ったところ、二人だけで逢うように計らってくれた。それをいいことに悉く壊してきた。一度目は金髪のカツラをつけて、二度目はガンヒョンが代理で来たということにして。

「ごめんなさい、でもどうしても嫌なの」

遠くに見えてきたバスに気付いたチェギョンはベンチから立ちあがった。











「シン、御苦労さま。叔母上はお元気でした?」
「ええ、お顔の艶もよくお元気そうでしたよ。とても80歳には見えません」

「それは良かったわ。ああ、そうそう貴方にお話があるのよ」
「また、ですか?母上、もう僕の事は放っておいて…」

「明日の2時に此処へ行きなさい。ホテルの支配人には言っておきました。護衛は極力距離をおいて…」
「母上!」

「貴方の為なのです。幸いに帰国したばかりで貴方の顔を知る者は少ない。マスコミに流しているのは高校生の時の貴方の写真のみですから…貴方の父上である陛下が、亡き兄上の殿下から皇太子の座を譲り受けてからの8年間は、私にとっても激動の8年間でした。大君の妻がいきなり皇太子妃、そして陛下が即位してからは皇后の責務を任されたのですから」
「はい…父上や母上が御苦労されていることは解っております」

「イギリスでの8年間は貴方にとって有意義な時間であったと思いたい。だからこそこれからは陛下のお傍で陛下のご負担を少しでも軽くして欲しいのです。解りますか?シン。王族会が主催する貴方の帰国報告会までにはお相手を決めておきたい」
「…」

「堅苦しい事が嫌だというからこれでもかなり譲歩しているのです。心動かすお嬢さんは本当にいなかったのですか?生まれも育ちも素晴らしいお嬢さんばかりなのに…」

大きく溜息をつく母親のミンに負けたシンは、しぶしぶミンが差しだすメモを受け取った。

「オリエンタルホテル?…ソウルタワーの近くの」
「そう、お父様とお母様が出逢った思い出のホテルです。まだ陛下が大君であった頃なので貴方と違って自由に逢う事ができました。だからこそ私達は貴方に配慮しているのです。お相手は素敵なお嬢さんと聞いています。ただ…」

「ただ?」
「いえ…何でもありません」

歯切れの悪い母の最期の言葉が少々気にはなったが、シンは最初から相手に逢うつもりなど毛頭なく、ましてや宮の存続安泰のための婚姻など時代錯誤も甚だしいと反感を持っていた。




「自分の相手を宮に決められてしまうなんてナンセンスさ」

東宮へ戻ったシンは、母ミンから受け取ったメモを握り潰しダストボックスに投げ捨てると、ソファに躰を預け胸元で両手を組んで目を閉じた。
イギリスでの8年間は有意義なものだった。誰ひとりとして自分を特別な存在として扱うことはなかった。心を許せる友人も出来た。

「あいつに頼んでみるか」











「…ったくだからってなんで僕なんだ!」
「ギョン、まぁそう怒らずに」

「シン、この借りは大きいからな!」
「わかった、わかった。ほらホテルだ。宜しく頼むよ。少し離れた席で見てるから」

「で、なんていう名前の子なんだ?」
「名前?あ、確認しなかった…」

「おい、シン!全くお前って奴は…」
「悪い。とにかくお前に任せたから適当にあしらって終わりにしてくれ」


フロントに行き席を確認するイギリス時代からの友人、チャン・ギョン。フロントから連絡を受けて慌てて現れた支配人が案内する観葉植物に囲まれた窓際の席を確認したシンは、ギョンに目配せして自分は少し離れた席に陣取りおもむろに新聞を広げた。
ほどなくして髪の長いメガネを掛けた女性がフロントに案内されて観葉植物の席へ向かい、その場に座っていたギョンに何やら話すと腰を下ろした。

「ふーん。あれが今日のお相手、か」

新聞の端からギョンの方へその視線を向けた時だった。座ったシンの傍を歩く女性が派手に転んだのだ。回りの客達は気の毒そうに視線を逸らし、転んだ女性はバツが悪そうにスカートの裾を押さえて立ちあがった。

「あれ?君、グレイスさん?」
「え?」

「シスターグレイス、なんでこんな所にいるの?」
「はい?あっ!」

慌ててシンの前に座り込んだ女性はチェギョン。
身代わりで席に座ったガンヒョンの事が心配になり、隠れるようにして近付いたのだが、長いシンの脚につまづいたのだった。

「あ、あの?あなた…」
「教会で…」

「あ!あの時の…」
「そう、あの時の」

まさかこんな所で自分を知った人間に逢うとは思いも寄らなかったのでチェギョンは気が動転した。窓際にいる今日の相手は自分の名前や顔を知っているに違いない。なのに今日はガンヒョンを替え玉に仕立てたのだ。長居は無用。それでなくても派手に転んでしまったのだ、これ以上目立ちたくない。


「あのね、私シスターなんかじゃありません」
「え?」

チェギョンは、シンに近付き小声で囁いた。

「だから、シスターじゃないの」
「でも君教会で…」

「ただのボランティアだわ。あなたが勝手にシスターだって勘違いしたんでしょ。それに今、貴方の脚につまづいたんだから」

彼女の透き通るような白い肌がうっすらと桃色に蒸気している。ゆるくカールがかかった黒髪が淡いパープルのワンピースの胸元で軽く揺れていた。教会で出逢った彼女とは明らかに違う装いにシンは戸惑った。

「…こんな素敵な所に一度来てみたかったの。それから≪グレイス≫はクリスチャンネームです。もう帰ります」


テーブルから立ち上がったチェギョンは、急いでホテルを出て行った。あっけに取られてみていたシンは、慌てて立ち上がるとチェギョンの後を追った。
ほんの少し脚を引きずるようにして、街路樹の続く道を歩いていくチェギョン。その後をゆっくりと気づかれないように車を進めるシン。色づいた落ち葉がくるくると風に舞い彼女を追っていく。

シンは不思議な気持ちだった。
今まで出逢った女性に心動かされたことはない。遊び友達はいたけれどそれ以上には発展しなかった。なによりも自分はこの国の皇太子であるということを重々自覚している。

通りに面して立ったチェギョンがタクシーを捕まえようとして軽く手を挙げる。慌てて車から降りたシンはチェギョンの元に駆け寄りその手を軽く掴んだ。

「え?ちょ、ちょっと、何するんですか?」
「脚、痛めたんだよな。僕のせいで」

「はい?」
「責任取るから」

「責任?」
「そう…それから君の本当の名前は?」

「チェギョン……シン・チェギョン」






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プロフィール

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Author:hana
韓国ドラマ【宮】をベースにした妄想話を綴っています。王道ありパラレルあり、風の吹くまま気の向くまま…

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