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Lightning・・・20

鶸鼠色の雷雲がここ済州島植物園にも迫っていた。
時折轟く雷音が、湿気を帯びた空気を震わせながら猛スピードで通り抜けていく。



「チェ尚宮様、チェギョン様がまだお戻りになられていません!」
「なに?それはまことか?」
「は、はい。」

チョン女官と、パン女官は互いに顔を見合わせ困ったように頷いた。

「中央タワーには幾人か内人が待機しているのであろう?」

チェ尚宮は休憩室に集まった内人達に向かって彼女らしからぬ大声を上げた。誰も顔を見合わせ、気まずそうにしている。

「あ・・・あのチェ尚宮様・・」
「なんだ?!」
「殿下が・・・殿下がこちらへお戻りになると聞きましたので、全員こちらに引き上げました・・・・」
「な、なんと!で、ではあのタワーにはチェギョン様お一人・・」

チェ尚宮の言葉が終わらないうちに休憩室の外が一瞬真っ白くなり、それと同時に大地をも揺るがすほどの轟音が建物全体を打ち震わせた。灯りという灯りが一瞬でショートし、薄暗くなったその部屋で女官達の悲鳴がこだました。
ソファに座って珈琲を飲んでいたシンは、空になったカップをソーサーへカツンを置くと、ジャケットの前を合わせて立ち上がった。

「で、殿下っ!どちらへ・・・?」
コン内官が立ちあがったシンを見て慌てて声を掛けた。


「・・・・迎えに行く。付いてこなくていい。ここで待て。」


「で、殿下!!」


シンはコン内官の止めるのを振り切り、休憩室の扉を開け走りだした。

「殿下・・・・・」
「コン内官様っ!このままでは危険です。護衛を!」

チェ尚宮はコン内官に詰め寄った。

「そ、そうであった・・・ソン・ガンホ!ソン・ガンホ護衛長はいるかっ?」
「ははっ・・コン内官様。」

黒いスーツを着た長身の男がコン内官の前へ音もなく進む。

「殿下を・・・中央タワーにいるチェギョン様をお守りしてくれ。」
「只今、直属の護衛を3名行かせました。私もこれから参ります。」
「そうか。頼む・・・・それから義誠大君殿下が王室リゾートを出られたらしい。もしかするとこちらへ向かっているかも知れない。わかっているな?」

ソンは大きく頷くと休憩室の扉を開けた。激しい雨の音が急に大きくなり湿気を含んだ空気が休憩室に流れ込む。扉を閉めるとソンも稲光が走る中を中央タワーに向かって走り出した。

「コン内官様・・・」

チェ尚宮が心配そうにコン内官を見た。

「チェ尚宮。大丈夫だ。殿下はきっとチェギョン様を守って下さる。」



煤竹色・・というのだろうか。
雷雲が太陽を遮って南国特有の色を失わせていく。頭上に龍が居座るが如く蒼白い光線が瞬き、と同時に轟く爆音に全ての者がその耳を抑え蹲った。

















どれくらい経ったであろう・・・

激しい雨音が次第に聴こえなくなり、雷雲が切れ切れになって強風に煽られるように東へ流されていく。
一筋の光が、迷路の庭園に落とされ、その光の両端がみるみる拡がっていった。東の空を見やると鮮やかな虹の橋が架かりだした。


「内官様、電気系統を修復いたしました。もう暫らくすれば灯りも復旧致します。いや、凄い雷でございました。」

植物園の代表がコン内官に言う。

「私もこんな雷は初めてでございます。それよりも殿下が心配でして・・・・」
コン内官が外へ視線を移した時だった。

「み、見て!チェギョン様・・・で、殿下?」
「ま、まぁ!」

内人達のざわめきの声が上がった。
雨が止んで、再び太陽の光が拡がる中に、チェギョンの肩を抱いたシンが迷路の庭園をゆっくり歩きながら休憩室に向かってくる。
シンの髪は後ろに掻きあげられ、脱いだジャケットは空いた手に握られている。

「で、殿下・・・ご無事で・・・ご無事で何よりでございました。」
「ああ、心配掛けた。コン内官。」

チョン女官は濡れたシンのジャケットを受け取り、タオルを手渡した。

「チェギョン様?大丈夫でございますか・・・・お顔が・・・お顔の色が・・・・」
「う・・ううん。だ、大丈夫だから・・・それよりシン君がずぶ濡れで大変なの。」

シンの腕から離れたチェギョンは、シンを気まずそうに見上げた。

「殿下、あいにく着替えがございません。休憩室前にお車を呼び寄せました。ここから直接王室リゾートへ戻ることと致しましょう。」
「ああ・・そうしてくれ。」

シンはタオルで髪を拭きながら、チェギョンには目もくれず、護衛と共に玄関に向かう。

「え?・・・シ・・・シン君・・・ま、待ってよ!」

チェギョンは慌ててシンの後を追った。
迎えに来た車に乗り込む二人。チェギョンは隣に座るシンを恐る恐る見上げる。シンは眉間に皺をよせたまま腕を組み目を閉じていた。


「ね・・・シン君。さっきは、ありが・・」
「少し、黙ってろっ!」


思いがけなく返ってきた不機嫌そうなシンの声にチェギョンは一瞬呆けたように彼を見つめた。


「だ、黙ってろって・・なに?!」
「うるさいっ!」
「はぁ?なんなのそれ?お礼を言おうと思ったのに。な、なんなのよ!」
「・・・・・」


シンはそのまま王室リゾートに着くまでだんまりを決め込んでいる。チェギョンはシンがどうして怒っているのかさっぱり判らず、フンと顔を窓の外に向けシンと同じ様に黙り込んだ。











「お帰りなさいませ。」

多くの内人達が頭を下げる中、シンはそれさえも目に入らないように足早に歩き、二人の部屋の扉を開けると、そのまま自分の寝室に入っていってしまった。

「なによ!雨に濡れたから申し訳ないって思っていたのに・・・・やっぱり、いつものシン君だ!・・・・・あんな事したくせに・・・・・・」
「チェギョン様・・・・」

チェギョンはギクッとして後を振り向いた。

「チェおねえさん・・・・い、いつからそこにいたの?」
「ずっと、チェギョン様について参りました。」
「そ・・そう。」

チェギョンは気まずそうに俯くと寝室に入っていく。

「お夕食はこちらにお運びいたします。どうぞごゆっくりなさってくださいませ。本日はお疲れ様でございました。」

パタンとチェ尚宮はチェギョンの寝室の扉を閉めた。






あの中央タワーで起こった事は何だったのだろうか。
ユル君が現れて私の手を無理やり引っ張った。
だけど、
だけど、私はシン君を選んだ・・・・

選んだ?

どうして・・・
どうしてあんな事言ったんだろう。
もっとシン君の事知りたくなった・・・なんて。

き、きっとあの雷のせいよ!

どさくさ紛れっていうの?
アイツったら私に・・・私に・・・・・


チェギョンはそっと自分の指先を唇に当てた。ユルのキスとは顕かに違う。目も眩むような雷光の中での出来事。
あれは、白昼夢?

シャワーを軽く浴びた後、疲れたようにベットにダイブした彼女は、柔らかなブランケットの中でいつしか目を閉じていた。
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Author:hana
韓国ドラマ【宮】をベースにした妄想話を綴っています。王道ありパラレルあり、風の吹くまま気の向くまま…

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