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16ー金輪奈落 1

「出来上がり!こんなものかな、チェ尚官お姉さん。」

チェギョンは小さなビニール袋に作ったクッキーを小分けに入れ可愛らしく包装したものに手作りのティディーベアの小さなぬいぐるみをストラップのようにつけたものを数十個目の前に並べていた。
まだ日が完全には昇りきらない早朝。

「とてもよく出来ておりますね。」

チェ尚官も微笑みながらその一つを手に取った。
今日は赤十字社のボランティアで乳児院の子供たちと共に川べりで一日を過ごす。
チェギョンは子供たちのお土産にクッキーとティディーベアのぬいぐるみを人数分用意したのだった。

「チェ尚官お姉さん。今日はシン チェギョンとしての一日だから、、翊衛士のお兄さんたちは出来るだけ離れてもらいたいのだけど、、ついてこないでとは言わない。だけど、、。」

チェギョンは懇願するようにチェ尚官を見た。
ここのところ食欲も落ち時々考え込むような表情を見せることも気になっていた。領事館の一件もある。普段の生活は特にスケジュールどおりで変化はないのだが。
チェ尚官はチェギョンが自分に心配を掛けまいとしていることもよくわかっていた。
何かはっきりとした原因があるのかそれとも漠然としたものなのか。

「わかりました。そのようにいたしましょう。くれぐれもお気をつけください。」

チェ尚官は微笑んでうなずいた。少しでも気分転換できれば。チェ尚官はそう思った。



子供達とこうやって 何も考えず接していると気持ちも少し明るくなって来る気がする。
白い雲が浮かぶ青い空を見上げチェギョンは両手を伸ばした。

「皇弟妃さま。」

その声にチェギョンは振り向いた。チン ガンファンだった。

「いらしていたのですね。こんにちは。それからここではシン チェギョンと呼んでください。」
「そうでしたね。ここではあなたはただの留学生でしたね。」

にこやかで大人の笑顔を向けるガンファンにチェギョンはつい気を許してしまう。

「そうです。」
「今のあなたはとてもいい表情をしています。子供達といるのは楽しいですか?」

ガンファンは青空を眺めながら言った。

「ええ。とても。一緒に遊んでいると何もかも忘れて素直になれます。」
「お聞きしていいですか?」
「はい。なんでしょう。」
「若干19歳で結婚し何があったのかはよく知りませんがあなたは自粛と言う名目でこの国へ来たのですよね?」
「ええ。そうです。」
「いつまで続くのですか?」
「わかりません。国民が私を許してくれるまでかな。」
「まだあなたは弱冠20歳です。これから先の人生はまだまだ長いはずです。長い人生の中では何度も出会いと別れを繰り返す。どうしてあなたはここまでして固執するのです?」

「固執?」

「そうです。皇弟妃という地位に固執しているのではないですか?そうでなくても高々20歳の時の恋愛を諦めてもまだこれからあなたには新しい人生があると思うのですが。今の場所から飛び立てば新しい未来が開ける、違うかな?」
「私は固執しているわけではないです。ただ、自分に正直でありたいと思っているだけです。」

「正直?」

「ええ。19歳であったとはいえ私がしたことは宮を混乱させ夫である殿下を追い詰めてしまいました。そのことに対して私は責任を取らなければなりません。それは自分の気持ちがこうしたいと言っているからで誰かに押し付けられたからではないです。」
「気持ちとか思いとかそう言うものはどんな風にも変えようと思えば変えられるものではないですか?」
「そうかな。でも私は変えられない。」
「あの青い空の向こう違う自分を見たいと思わないのですか?」
「どうかな?でもこの空はどこまでも続いて繋がっているから。どこにいても大事な場所に繋がっているんです。」
「大事な場所?」
「そうです。」

チェギョンは眩しげに青い空を見上げて笑った。ガンファンはその笑顔が何故だか脳裏に焼きついた。

「チェギョンお姉ちゃん!遊ぼう~!」
「あ、ごめんなさい。私行きます。失礼します。」

チェギョンは微笑んで走って行った。




ヨンジュンはチェギョンとガンファンがいる場所から少し離れたところで二人を眺めるようにボランティアの作業を手伝っていた。チン ガンファン。香港、マカオ、韓国を跨ぐ財閥で父親はマカオでもカジノ事業にかかわっている裏も表も強い人物だ。ガンファンは長い間ヨーロッパで暮らし一昨年まで様々な場所で赤十字関係のボランティアなどに参加していた。それが昨年帰国し父親の仕事を手伝いながら自身は政府の社会文化庁で勤務していた。ガンファン自身は韓国に長期で住んだ記録はない。ここ数年韓国に出入りしている記録は数日間の滞在が2回ほど。それも赤十字関係と政府の仕事が目的だった。特別今の所極めて怪しいとは言えない。だが最近父親は赴任してきたクォン代理領事と頻繁に会っておりそのつながりは否定できない。いや、たぶん極めて近いと言ってよいだろう。長いことこう言う仕事をしていると大体において白か黒かわかることが多いがどうもガンファンにおいてはどちらとも言えない。そう思いずっと付かず離れずそばにいたのだった。

ここの所殿下は苛立っている。
何故かわからないが領事館での一件の後からさらにひどくなったのだ。まだ本国から助けが来ない。怪しい人間を探りながらの警備はかなり厳しい。だが殿下のお気持ちもわかる。妃宮さまはすぐに人に気を許されてしまう。それはやはり危険なことではあるのだ。



チェギョンがガンファンから離れ子供たちの輪に入って遊び始めた。ヨンジュンも出来るだけその近くへと移動して注意を払っていた。

「アンディ!そっちはだめよ!」

川岸に子供が近寄っている。数日前に降った雨の影響で川の水かさが増し流れも早い。ヨンジュンは気になり注意を向けた。その子供はすぐに立ち上がりこちらへ戻る気配を見せた。ヨンジュンはホッとして気を緩めたその瞬間だった。

「きゃあ!誰か!」

ヨンジュンはすぐ走り出したがその時目に入ったのはチェギョンが川に飛び込んだ所だった。

「!!」

ヨンジュンはチェギョンがその男の子を抱き止めたのを確認し2人めがけて飛び込んだ。
思ったより流れは速い。

「大丈夫よ!」

恐怖で暴れる男の子を必死に抱きかかえて落ち着かせようとするチェギョン。ちょうど 小さな岩がありその岩で辛うじて体を支えていた。

「その子を私に!」

ヨンジュンは大声でチェギョンに言ってチェギョンに近寄った。2人を抱えるには危険だ。ヨンジュンはそう判断し子供を受け取り川岸に向かった。

チェギョンは必死に体を岩で支えて子供を手渡す。思うように体が動かず辛い。子供を手渡した時バランスを崩し岩に肩を打ちつけた。

痛っ!

その痛みでチェギョンは目の前が歪んだ。

あそこに行くのは誰?
誰かが遠くに行ってしまう。
どうしたの?
シン君?
シン君?
なんでその人と行くの?
待ってシン君。
チェギョンは水の中手を伸ばした。

ヨンジュンは川岸にいた数人の人間に子供を手渡した。子供は泣いているが元気だ。その時だった。

「きゃあ!溺れる!」

川岸の一人が川を指差した。ヨンジュンはすぐに振り返るとチェギョンが流されるのが目に入った。
ヨンジュンはすぐにまた飛び込んだ。チェギョンは流されながら沈んでいった。意識がないのだろうか。どんどん流される。ヨンジュンは力の限り泳ぎもぐった。

なんとかチェギョンの肩を掴んだとき反対側を誰かが掴んだ。
意識がないチェギョンを二人の力で何とか川面に浮かび上がらせ川岸へと運んだ。
もう一人はチン ガンファンだった。しかし、今はそれどころではない。
チェギョンを助ける方が先だった。川岸の助けを借りチェギョンを引き上げヨンジュンは叫んだ。
チェギョンの翊衛士が二人駆けつけている。遠くにいたため到着が遅れたのだろう。

「すぐに救急車を!」
「チェギョン、シン チェギョン!」

ガンファンが呼ぶが意識はない。心肺停止状態。
ヨンジュンは躊躇なく心臓マッサージを始めた。

「すぐに暖めるものを!」

マッサージ数回でチェギョンの顔が少し歪んだ。

「ごぼっ、」
「横を向かせて!!」
「呼吸は回復したぞ!」
「心拍も戻った!毛布で包んで!」
「君、血が出ている!」

ヨンジュンに向かって誰かが叫んだ。気がつくと太ももがざっくり切れて出血していた。

「大丈夫です。」

ヨンジュンは答えたがかなりの血が流れ落ちている。

「駄目だ!あなたもすぐに手当てを!」

ヨンジュンは仕方なく従った。



「意識はないですが呼吸も心拍も戻っています。キアン ウー ホスピタルにすぐ向かってください。」

ガンファンが翊衛士とともに救急車に乗り込み隊員に言った。

「わかりました。連絡を取ります。」
「すぐに責任者に言ってください。チン ガンウンの息子が行くと。」

ガンファンは横で時折顔をゆがめるチェギョンを見つめた。

何故こんなことを。
一つ間違えば死ぬ。
こんなことを躊躇なくするなんて。
この小さな体にすべてを抱え込んでいるのに。
それでも誰かを助けようとするとは。
馬鹿げている。
手を離せば済むことなのに。
何故だ?何がそうさせるんだ?

ガンファンはかぶりを振った。
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Author:hana
韓国ドラマ【宮】をベースにした妄想話を綴っています。王道ありパラレルあり、風の吹くまま気の向くまま…

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