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Lightning ・・・1

静かな雨が降っていた。


俺は、心地よいソファに体を預けながら、瞼を閉じた。彼女が運んでくるアールグレイの紅茶の香りが鼻先をくすぐっている。そっと肩に置かれた手にゆっくりと自分の手を重ねて行く。


こんな時間が俺は好きだ。


何の制約もなく、ただこの心地よい時間にまどろんでいればいい。携帯の電源は切ってある。護衛達が此処に入ることはない。そして勿論許可はしない。
彼女の細い指先が俺の手の中で艶めかしく蠢いている。俺の指の間をすり抜けたその指先は、俺の首筋を這い上り喉元をいくらか掠ったあと、薄い唇をなぞっていった。


「ね、シン。今日はいつまで居られるの?」
「・・・・」
「ね、聞いてる?」


彼女の両腕がけだるそうに俺の後ろから掛かってくる。彼女の顎が肩に乗せられたほんの僅かな瞬間、ルージュの香りが鼻についた。


「少しきついな、薔薇の香りか?」


俺は不機嫌そうに言った。
そう、俺は香水の匂いが苦手だ。あの人工的に作られた香り。薬にも似た香りで時折咳き込むこともある。
自分のシャツのボタンを弄ぶ彼女の両手を掴んで払うと、俺はいきなり立ち上がった。


「帰る。」


ジャケットを掴んで身に纏うと、そこにはいつもの皇太子の俺がいた。彼女は少し驚いたようだったが、いつものことだと大きく溜息をついて俺の後に続いた。


「ね、次はいつ来る?」
「・・・・」
「シン、そろそろはっきりさせてくれないかしら。いつまでもこんなんじゃ嫌よ。」
「・・・また、電話する。」


俺はその一言を彼女に預けるとマンションのドアを開いた。両側に二人の護衛、エレベーターの脇にも二人。
マスコミを警戒してか、彼女はドアから顔を出さない事になっている。
黒い眼鏡を掛けて足早にエレベーターに向かう。上がってきたエレベーターの中に素早く滑り込むと4人の護衛は俺の姿を隠すようにぐるりと取り囲んだ。一人が無線で階下にいる護衛と連絡を取りあっている。


「殿下、地下の駐車場には誰もいないようです。このまま降ります。」
「わかった・・・」


各階のエレベーター乗車口には護衛が張り付けられ、誰ひとりとして利用出来ないように見張っている。
ノンストップで地下のフロアに着いたエレベーターから降りた俺は足早に皇宮の用意した黒塗りの車に乗り込んだ。


【地下駐車場出口、誰もいません】
【大通り方面、異常なし】
【宮までの進行経路、異常なし】


次々に無線で入ってくる護衛達のやり取りを聞きながら、俺は後部座席に深く沈み込んだ。


「では、殿下これより出発いたします。」
「ああ・・宜しく頼む。」


キキキーっというタイヤの軋む音と共に、俺を乗せた車はゆっくりと出口を目指して動き出した。大きなカーブを曲がりながら緩い傾斜のスロープを昇っていく。明るい光が見えてきて出口に差し掛かった時だった。



≪ドンッ!≫



体が一瞬宙に浮き、気付いた時には空いていた左側の座席にいつの間にか飛ばされエアバックの中にうずもれている自分がいた。
飛ばされた拍子に首筋が少し軋んだようだった。


「むう・・・・」


首に片手を添えて体制を立て直す。


「で、殿下っ!大丈夫でございますかっ?!」


後続車から慌てふためいて降りて来た護衛達が、俺の左側のドアを開けて口々に叫んだ。
いったい何が起こったのか?
運転席でもエアバックが開き、護衛達が必死になって外へ出ようとしている。車の中から漸く助け出された俺の視界に、車の脇腹に突っ込んで止まっている赤い車があった。運転席には若い女性が乗っているようで、駐車場出口で待機していた護衛達が大慌てで駆けつけてくるのが見えた。


「殿下!・・・後続車に急いでお乗りください。処理はこちらで行いますっ!」
「分かった・・・あの女性は?」
「ご心配には及びません。警察の方にはコン内官様から上手く話をつけて戴くこととなりましょう。さぁ・・・お急ぎになってください。」


俺は、赤い車の中で真っ青になっている女性の顔を見ながら護衛に促されて後続車に乗り込む。急発進する車の中で首筋をさすりながら、抜き去っていく赤い車を再び目にしていた。





運命の扉は今、開かれた―――――
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Author:hana
韓国ドラマ【宮】をベースにした妄想話を綴っています。王道ありパラレルあり、風の吹くまま気の向くまま…

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