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JOURNEY 1

5時・・・もうすぐ着くわね。今度はどんなピアノに出逢えるのかしら・・・

私は時間を確かめると手元のバックをギュっと握りしめた。毎度のことだが、手荷物検査で必ずひっかかるこのバック。親しい友人は手元に置かずに預ければいいのにと言う。だけど、私はそれをしない。命よりも大切なもの、調律師にはなくてはならないもの、何人もの調律師に使いこまれ、偶然にも私の手に渡ってきたチューニングハンマー。

飛行機のエンジン音が大きくなり、シートベルト装着ランプが点灯した。もうすぐ仁川国際空港に着陸する。国宝級に匹敵するというグランドピアノの調律を依頼された私。業界ではちょっと名の知れた私なのだ。
調律師は、絶対音感が不可欠でもあるが、それ以上に体力がものをいう。そして集中力。鋼鉄の弦のたわみを瞬時に発見し、そのねじを締めあげていく。寸分の狂いもなく、音の波長が見事に重なるまで。下手な調律師の高音はすぐにねじが緩んで音が狂う。景福宮の奥深くに眠っていたというグランドピアノは、18世紀頃、ヨーロッパから裕福な両班の手を経て、時の皇帝に献上されたモノだと聞く。弦の状態はどんな風なのか、錆ついてしまっているか、心は既に所蔵されている国立博物館に飛んでいた。
見る見る近づく滑走路。下降を始めた機体の後ろから小さな爆発音が聴こえた。大声で叫ぶ乗客の声。白い煙が忽ち後ろから迫って来る。頭の上の酸素マスクが一斉に降りて来たと同時に機体は大きく傾いた。

「キャー!」

乗務員が必死で傍のシートにつかまり真っ蒼な表情で仲間達に合図をする。

≪こちらは機長です。御客様にご連・・・・只今の不明の爆発により・・・・これより胴体着陸を・・・乗務員は・・・≫

「う、嘘!胴体着陸ですって?!」

隣の婦人が真っ蒼な顔で私の顔を見つめた。私も同じように青ざめた表情をしていたのかもしれない。滑走路はすぐそこに見えているのに一向に下降しない飛行機。多分旋回しながら高度を除徐に下げているのだろう。窓から見えるソウルの街並みが茜色に光っている。
早くあの場所に行きたいのに、私は一体どうなってしまうのだろう。

≪お客様、靴をお脱ぎになって前傾姿勢を保って下さい。お子様がいらっしゃる方は・・・≫

乗務員のアナウンスの声にもしかしたら死ぬのかもしれないって思った。叫び声をあげる人、大泣きする人、必死でメモを書いている人・・・・
私は足元に置いたバックの中に入っているチューニングハンマーに手を伸ばそうとした。

【ドーーーーーーン!】

大音響と共に機内の灯りがすべて消えて、チラリと窓から見えた翼には炎がどんどん拡がっている。衝撃で腹部を激しく圧迫された私は気を失った・・・・・










≪・・・さまぁぁあ・・・・・さまぁぁぁあ!!≫

うーーーん、煩いなぁ。
・・・・ちょっと待って。
あれ、飛行機どうなったんだろ?ひょっとして・・・・ここって天国?
やだ!私まだ28よ。
そう28!
そりゃ<薹が立つ>って言われたって文句が言える筋合いではないけれど、こう見えたって年よりも若く見られるんですから!
やりたいことたくさんあったし、仕事だって恋愛だって・・・・恋愛、そう言えばとんとしていなかったなぁ・・・・こんなことになるなら、タケルでもアキラでもOKしてやればよかったわ。
ああ、これで私の人生もおしまいね。
美人薄命ってこの事をいうのよ。
きっと明日の新聞にはこう出るわ。
仁川国際空港での飛行機墜落事故で貴重なる我が国のピアノ調律師逝く・・・・って。
ありえない・・・か。

「おい、いつまで寝ているんだ?タヌキ寝入りは大概にしろ!」

私は耳元で叫ぶ男の声にガバッと飛び起き・・た。
私を囲む大ぜいの顔、顔、顔。だけどなんだか変だ。
飛行機事故に逢ったハズなんだから、周りに居るのはドクターやナースの筈。なのに、やたらに鬘を付けまくり韓服を着た女性達が心配そうに私を覗き込んでいる。
ベットじゃないし、それに白い韓服の下着・・・ここの病院のコンセプトなのかしら。
こんな病衣なんて初めて・・・・

映画の撮影・・・って違う・・か。

私の前に跪き怪訝そうに覗き込むその顔にギクリとした。
なんて綺麗な顔なんだろう・・・
一つ一つのパーツがもろに私好みだわ。
すぅっと通った鼻筋は団子鼻の私にとっては永遠の憧れよ。
それにこの唇、薄いけれどなんだかとってもセクシー・・・・
どっかで逢ったような・・・アレ、何処だっけ?
ああ、なんだか頭のてっぺんがズキズキする。

「本日の同牢の儀はいかが致しましょうか?」
「やめておこう。上殿には滞りなく・・と伝えるように。いいな。」
「は、はい。」

やたらに鬘をつけたオバサンは格子の引き戸を開け廊下へ出ると、他のオバサン達を従え行ってしまった。

「さて・・と。」

青年が私の顔を見てニヤッと哂う。

「上手い具合に回避したな妃宮。」
「妃・宮?」
「ほう、まだシラを切るって言う訳か。この同牢の儀は俺だって気が進まなかったんだ。もっと若い女かと思ったら・・・」
「はぁ?悪かったわね・・・っていうアンタは誰?ってここは一体何処なのよ!」
「誰?何処?いまさらそんな言葉が出るとはな。これは一種の取引じゃないか。お前だって其のつもりで親に泣きついたんだろ?宮と取引なんていい根性しているよ。」
「み、宮?やだ、何言ってんのよ。ぶはははは、宮、宮殿???やっぱここって映画村でしょ?」

私はお腹を抱えながら笑い転げた。
憮然とした青年は、笑い転げる私の両腕を急にグッと抑えつけると、真剣な眼差しで私に迫る。

「なんなら、このままヤッてもいいんだぞ?」
「え?な、何っ!?」
「だから合房だ。」
「合・・・房・・・・・って何っ?」
「合房は、合房だ!」

私は必死になって抑えつける彼の腕を払いのけようともがいた。しかし彼の腕はビクともしない。そればかりかどんどん彼の躰の重みが加わってくる。

「ちょ、ちょ、ちょっと!言っておきますけど、これって一種の強姦よね。犯罪よ!犯罪!婦女暴行罪なんだから!」

顔をこわばらせて抵抗を試みる私の顔をじっと見ていた彼は、フンと鼻先で笑うとゴロリと後ろを向いて寝てしまった・・・・
寝て・・しまった?
寝たぁ?

「ちょ、ちょ、ちょっと!どうしてアンタがここで、寝るの?」
「うるさいな。婚姻をあげたんだから当たり前だろ!早く寝ろ!」
「こ、こ、こ、婚姻?」

飛行機事故で頭がおかしくなったのか、それとも夢をみているのか、はたまたここは自由意志が働く天国なのか。
両手を組んで後ろ向きに寝る青年の大きな背中を見ながら、私はそろり、そろりと後ろに下がり、手に触れた棒のようなものをしっかと握りしめた。

「俺の事をどうにかしようものなら、おまえは王室反逆罪で処刑される・・・」

後ろ向きになっているのに背中に目でもついているの?

「余計な考えはやめることだ。」
「王室・・・反逆・・罪?処刑?」
「皇太子に対しての反逆罪だ。」
「こ、皇太子?」

ガタガタと格子窓に身体をぶつけた私はその場にフニャフニャと座りこんでしまった。

王室・・・って、皇太子・・・って。
≪ありえない!≫
今の時代に王室なんてないのだから。
私、本当にどうかしちゃってる?
飛行機事故のせいで凄い夢をみているんだ、きっと。
眠れば治るわ。
きっとそう。
寝なくちゃ・・・・・ガンバレ私!

「ほう・・観念して寝たか。」
「なんとでも言って・・・絶対これって夢に決まっているんだから。」
「はは、そうだろうよ。こうなることがお前の長年の夢だったんだろ?」
「うるさい、寝るんだから邪魔しないで。」

ごろんと青年に背中を向けて目をつぶった。どうせ夢なんだから大丈夫。
握り締めた棒を改めてみると、それは胴体着陸する前に必死で握りしめたチューニングハンマーだった。













「殿下、妃宮様、朝でございます。お顔を漱ぐ手桶水を持って参りました。」
「殿下、妃宮様、お起き下さいませ。」

なんだか騒がしい。
テレビ付けたまま寝てしまったのかしら・・・・?
いや、違う。
たしか、ここは病院の筈。
ううん、もしかして飛行機事故も夢・・・・?

なんとも心地よい空調に、温かで柔らかな布団。気分がさわやかななるような香の匂いがする。
私は、両腕を伸ばして大きく背伸びをしようとして、何か柔らかいものに触れた。
髪の毛?
あれ?
重い瞼に親指と人差し指をつけてグイッと開けてみた。

「キャー!な、な、なんでアンタがここに?ってまだ夢が覚めないの?」

私の傍に眠る青年は上半身裸のまま私を抱きかかえるようにして眠っている。黒くて長い睫毛がキリッと引き締まった頬にその影を落としてなんとも言えない気分になって思わずゴクンと唾を飲み込んだ。

「殿下、妃宮様、もうそろそろ・・・・」

廊下から聴こえる声が少し大きくなった。

「ああ、解ってる。しばらくそこで待て。」
「え?お、お、起きてたのっ?」

じっと見つめていた青年の瞼が急に見開き私は慌ててしまった。青年はニッと笑うと上半身裸のまますくっと立ち上がった。
そのほれぼれするような立ち姿。無駄な肉などこれっぽっちもなく、程よく引き締まったその躰は見つめるに充分すぎる程魅力的だった。

「おい、なにをボーっと見ているんだ?お前の貧相な胸が丸見えだぞ。」
「えっ!?」

私は慌てて自分の胸元を見降ろす。紐が解けて前身ごろが肌蹴ていた。

「きゃっ!」
「早く支度をしろ。挨拶にいく。」
「挨拶?」
「上殿へ行くに決まっているだろう?いくつか質問されるだろうが、恥ずかしそうにすべて頷け。いいな?」
「上殿?ちょっと・・・これって夢・・」
「つべこべ言わずさっさと支度をしろ。」

青年は廊下側の引き戸を開け放った。と同時に昨夜の夢の中の鬘を付けたオバサン達がなだれ込んでくる。あっちこっちをいじられてあっという間に、韓服を着せられてしまった。

「いくぞ!」
「ちょ、ちょっと待って。私、貴方に訊きたい事が・・・」
「黙ってついて来い!」

これは夢なんかじゃない。
ここって何処なの?
私どうしちゃったんだろう!?
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Author:hana
韓国ドラマ【宮】をベースにした妄想話を綴っています。王道ありパラレルあり、風の吹くまま気の向くまま…

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