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Memory・・・Ⅰ

 
 
≪バサバサッ!!≫
 
霧が立ち込める灰色の森の木立の中から、急に飛び出してきた一羽のフクロウが、何もあるはずもない空の狭間で急にその大きな羽ばたきを遮られ、飛び散った羽根もろとも地表に墜ちて来る。羽根が折れたのであろうか、地表に落ちたフクロウは体を傾けて必死でその軀を立て直そうとしていた。2本の足で何とかバランスを取りながら地表を這うその先に、黒いマントをはおった青年の姿があった。フクロウはその丸い目でクルリと青年を捉える。
「もう、君は駄目だよ・・・楽にしてあげるから・・・・」
青年は羽根をばたつかせて暴れるフクロウを手にすると、そっと唇を寄せていった。
 
 
 
 
 「まだ見つからぬのか?」
「はい、申し訳ございません、ヘミョン様。」
「まったく、何処に行ったというのだ。次にこの力を司る者としての修練も大切だというのに・・・」
ステンドグラスの光り輝く大聖堂の中で、真っ白いガウンを纏ったヘミョンと呼ばれた女性は額に手を遣り、長い溜息をついた。傍には、18歳くらいだろう、金髪の少年と真っ黒な髪を頭上で束ねた少女が、ヘミョンと同じく真っ白いマントを纏って立っている。
「月が翳るその時に生れし子、その中でもこの力を携えて生れ出る子は皆無に等しい。今修練している子は3人しかいない。その中でもあの子の力は群を抜く。一体自分の力を何だと思っているのだ!」
「も・・・申し訳ございません。」
「・・・大臣、そなたが謝ることではない。あの子の・・・・チェギョンの心構えがないばかりに、いつもこんな事をしでかす。」
ヘミョンはガウンを払いのけると祭壇にあがった。
「いつものように、力を放出します。東の方に何か振動があった。きっと何かの動物が触れたのであろう。大臣、他の者の、ここへの入室を制限しなさい。」
「はい。ヘミョン様・・・・」
大臣は前向きのまま腰を落とし、急いで下がると祭壇への扉を閉めた。祭壇に上がったヘミョンは、頭上の巨大な天窓を開け放ち、跪いた。両手を組んで俯き、少し開いたその口元から呪文のようなものを唱える。傍に立つ少年と少女は息を呑んでその行為を一筋も逃すまいと目を凝らした。地とヘミョンを結ぶその場所に一筋の小さな蒼白い光が現れた。その蒼白い光をヘミョンは呪文を唱えながら両手の中に囲い込む。彼女の指の隙間から洩れ出る光。それは大きな球体となってヘミョンの顔を蒼く照らし始め彼女の唱える声と共にその球体は祭壇の上の天窓めがけて飛び立つ。
 ≪カッ!!≫
 聖堂から飛び出した球体は天に達し、その場で砕け散った。すると、虹色の淡い光がまるでその土地を守るかのようにドーム状の薄い壁となって舞い降りて来る。
「終わりましたな。ヘミョン様。」
大臣は空から降りて来る虹色の結界を眺めた。
 
 
 
「チェギョンや・・・・ヘミョン様がお力を放出されたな。」
空を仰ぎ見た老婆が、井戸端で野菜を洗いながら、小石で地面に絵を書く少女に声を掛けた。
「そう?私だってあれくらいできるわ。」
「また!そんな事を言うでない。」
「・・・・」
老婆の言う事を聞いてか聞かずか、フフンと笑うとチェギョンは立ちあがって、自分の書いた絵を満足そうに眺めた。
「チェギョン・・・お前ももう18歳だ。少しはこの年寄りの言う事を聞きなさい!」
「年寄りの言う事が全て正しいとは限らないわ。」
「チェギョン!・・・・お前はいつになったら其の性根が治るんだい!」
老婆は洗っていた人参を構えた。
「生まれつきの性根は治らないわよ。」
チェギョンは滑稽な顔つきを老婆に向けると、その場から逃げだした。
「まったく・・・・あの子にも困ったもんだよ。何かって言うと口答えして・・・・・あれでヘミョン様のあとを継いで守る者になれるんだろうか・・・・」
老婆は握っていた人参を力なくタライに投げ入れると虹色の空を見上げた。
「こうして国々を途絶えることなく訪れになって、ヘミョン様が守ってくださるからこそ、私達はこうして安全に毎日を過ごして居られるんだ。尊いお方だ・・・・」
 
 
 
「もうっ!毎日毎日、修練修練・・・いやになるわよ。ユルやヒョリンはよく平気であんな事やっていられるわね。私には到底考えられないわよ。こうやって手をかざせばすぐにあんな光の玉なんて現れるのに、今更修練が必要なの?」
チェギョンはぶつぶつ言いながら野の花を摘み歩いていた。ふと気がつくと、いつの間にかすっかり街外れに来ている。あと数メートルの所にヘミョンが作った結界があった。そのゆらゆらと虹色に輝く結界に吸い寄せられるように近づくと、チェギョンは手を翳してみた。
 「この向こうはどうなっているのかしら・・・・・おばあさんは何もない世界だって言うけれど、おばあさんだって見た事ないんだから、そうとも言えないじゃない。覗いてみたい・・・・」
 チェギョンは片手を結界に近づけていった。
 
 
 
「また、お前行ったな!あそこには近づくなと言った筈だ!」
「申し訳ありません、父上。」
静まり返った森を越えた先にある、崖の上に聳え立つ古い城。重い扉を押し開けると、重厚な絨毯を敷き詰められた階段があった。その階段を登りきると大広間があり、わずかな灯りが灯されて、その光はそこにいる者達の影を長く落としている。薄暗いその大広間で、青年は激しい叱責を受けていた。
「お前はあの先に何があるのか、もう知っているのであろう?」
「・・・・はい。」
蝋燭の光に浮かび上がる青年の顔は蒼白く、すっと通った鼻筋と薄い唇のその端正さは息を呑む程美しい。
「もうすぐお前は大人になる。儀式は心得ているだろうな・・・今までのように小動物を相手にする歳は超えるのだ。これさえ済めば一人前として認められる。」
「はい、父上。」
「100年に一度、いにしえからの約束によってあの結界は開かれる。今がその時。狙え。こちらに引き摺り込めれば上々。我々の種族は他の雑種とは違う。純血こそが我らの生きる証。シン、心してかかれ・・・」
「はい。」
 父の言う事はわかっていた。我々の種族は何世紀もの間、純血を守っていた。他の種族のように、雑種ではないのだ。完璧なる行為。その一滴たりとも残してはならぬ。また、与えてもならぬ。与えてしまえばたちまち我々種族は穢れてしまうのだから。
一匹の野兎がシンの前を横切った。ハッとしてシンは、その野兎の行く手を阻む。その刹那、野兎はぐったりとその耳を彼に掴まれて力なく揺れていた。手の甲を薄い唇に当てクイっと横に引く。ウサギのその香りにシンは酔いしれた。
 
儀式で飲み干す獲物は、どんな香りがするのだろう・・・・・
 
金色に輝くシンの瞳が穏やかな榛(はしばみ)色に変わっていく。森を出て、虹色に輝く結界の際までその足を再び運んだ。
「この向こうの世界。月が翳るときに生まれし子。力を司る者との約束・・・・か。」
結界に手をかざすシン。
 『あの結界に触れてはならぬ。触れて良いのは儀式で獲物を捉えるときだけ。いいな、シン。』
 
そんな約束を何千年守ってきたのだろう。
この儀式さえ済ませれば僕は
一人前・・・・・
 
その時結界がほんの少し揺れた。薄くなった結界の隙間から向こうの世界がぼんやりとだが見える。
明るい空、大地に咲く花々、緑に染まった森・・・・・思わずシンは手を伸ばした。
 
 
 
 
 
 
「この結界を越える事がイケないなんて誰が決めたのかしら。何もない世界なら結界など必要ないのに・・・・」
その時、風に揺れるようにして結界がほんの少し揺れた。薄くなった結界の隙間から向こうの世界がぼんやりとだが見える。
灰色に染まる空、草の一本も生えていない石だらけの大地。鬱蒼とした暗い森・・・・思わずチェギョンは手を伸ばした。
 
「「あっ!」」
 
伸ばした手と手が触れた。結界ごしにまるで映し鏡を見るように手を合わせ、互いにその姿を見つめる二人。
≪バチバチッ!!!≫
結界に触れる二人の手から激しい火花が飛び散り、慌てて手を自分の方へひっこめた。
 
「・・・・・あれが・・・人間?僕らと姿形は変わらないじゃないか。あれが・・・・獲物・・・・」
ふらふらと傍の岩に座りこむと、シンは触れた手を目の前に翳した。微かな温もりがあった。氷のような心にその温もりがどんどん広がって溶かされていく。もう、どうしていいかわからなかった。
 
 
「・・・・い、今の誰?何もない世界じゃないの?男の人…だった?」
チェギョンは冷たい彼の手の感触が残る自分の手を目の前に翳した。ゾクッとする程端正で美しく氷のような表情。榛(はしばみ)色の瞳だった。胸の鼓動が速くなりチェギョンは思わず両手で胸を抑えた。
 
 
 結界の傍にいつまでも佇むチェギョン。結界の向こう側は厚い虹色のカーテンで塞がれて、覗き見る事はもはや叶わない。手をかざしてもなんの反応もないその結界にチェギョンは溜息を漏らした。
「チェギョン・・・探したぞ。」
「ユル・・・」
「何をやっていたんだ?ヘミョン様が大変お怒りになっているぞ。」
「へえ・・・あの方でもお怒りになる事があるのね。」
「チェギョン!」
「修練なんて要らないわ。ほら・・・・」
両手を合わせて小さな蒼い光を集め始めるチェギョン。ユルは慌ててチェギョンの手を叩き落とした。
「やめろっ!どうしていつも君はそうなんだ?もっと人の話を素直に聞けよ。」
「素直?あら、いつだって私は自分に正直だわ。自分に正直なのと貴方に素直になるのとは違うわね。ユル。」
「チェギョン!それを屁理屈っていうんだ。とにかく、ヘミョン様の元へ急ぐんだ!」
ユルはチェギョンの手を取って歩き出そうとする。
「離してっ!触らないで!」
チェギョンはユルの自分を握った手を振りほどくと、聖堂に駆けて行った。
なんだよ・・・
せっかく迎えに来たのに、
僕に触れられる事すら嫌なのか?
チェギョン・・・・・
ユルは栗色の髪をなびかせて駆けて行く彼女の後ろ姿を見つめた。力を司る同士による契りは、互いの力をより強固にする。それを知っているからこそ尚更チェギョンとの関係をユルは望んでいた。
 どうせ契りを結ぶのなら
力の弱いヒョリンより
ヘミョン様をも超えるチェギョンがいい。
 ユルは自分の両手を合わせてそこに現れる、蒼いおぼろげな小さな光を見つめた。
 
 
 
「父上・・・人間とは我々の形状と何ら変わりはないですかっ!」
「・・・そうだ。シン、怖気づいたか?」
「い・・いいえ。」
蝋燭に火を灯してシンの顔に近づける。王は、自分の首筋に指2本をあてがった。
「ここを一気に・・・・・・いいな。一滴も残すな。やり方は、森の動物達と何ら変わりない。それから人間の心をも奪え。」
「人間・・の・・心をも・・・・」
「獲物を前にすると興奮するであろう?全ての事を忘れ去る程・・・・・人間の心が共に興奮すれば最上の味わいを楽しめる。」
「・・・・・・」
「お前に人間の気持ちを向けさせろ。お前だけを見つめさせろ。いいな。これが出来ればお前は一人前になれる。」
「はい・・・・父上。」
シンは城を出ると再び結界の傍に寄った。触れた手の温もり・・・驚いて見開かれた黒曜石のような瞳。
栗色の髪、薄紅色の唇。シンは自分の手を顔に寄せて、思い切りその手に残る彼女の香りを嗅ぐ。
「ああ・・・素晴らしい香り・・・だ。」
 
続く ↓
 
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Author:hana
韓国ドラマ【宮】をベースにした妄想話を綴っています。王道ありパラレルあり、風の吹くまま気の向くまま…

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