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ブラッド





霧の深い夜だった。
ガス灯の灯りがぼんやりと霞み、家々の窓には頑丈な鎧戸が降ろされ、まるで街全体が息を潜めているかのように寝静まっている。
町外れに一軒の大きな屋敷があった。その屋敷は鉄の柵に囲まれ外壁には蔦が絡み中を覗く事さえ出来ない。庭には噴水があったが、とうにその役目を忘れたかのように水は干上がり、石造りの堕天使アエリアの腕は、鳥たちの格好の塒となっていた。
町外れの林の中から、軽快な馬の蹄の音が近づく。その蹄のリズムは屋敷の前で乱れ、やがて止まった。
重い鉄門が音もなく開かれ、馬上の主は馬をなだめながら中へ入っていく。
石造りの階段前に着くと、どこからともなく下男が現れて馬の手綱を握った。
「お帰りなさいませ・・・・若様。」
「ああ・・・何か変わった事はなかったか?」
ひらりと馬から降りると、男はマントを脱ぎ捨て階段を登る。
白い月明かりに浮かび上がったその表情は気怠さと憂鬱さを満面に表し、両目は全ての心を凍らせるかのように冷えていた。
「いつもと同じでございます・・・・・若様。」
下男はそう言って厩舎へ下がった。

「今、帰った・・・・・何処に居る?」
大きな扉が開け放たれ、冷たい霧が静かに流れこんで行く。誰もいないシャンデリアが揺れるホールに向かって男は呟いた。


「ここに・・・居るわ。」
ぼうっと男の前に一人の女が、燭台を持って現れた。
「お帰りなさい・・・」
「ただいま。お前に逢いたかった・・・・・」
いきなり抱きしめられた女の手から燭台が落ち、炎が消えた。


「はぁ・・つっ・・・・はぁ・・・」
僅かな蝋燭の灯りに照らし出される絡み合う二つの躰。浅黒い男のそれは、抗う真っ白な女の躰のある場所を探し求め彷徨っていた。男の指先が白いうなじを走り、うつ伏せになって顕になった女の細腰を抱え込む。其の場所は漸く見つかり強引に分け入った。
「ああっ・・・・」
男の躰のリズムに合わせるかのように揺らめく白い肌。女の柔らかなその乳房を扱いたまま、男は自分の目の前にその躰を引き上げる。白い肌がバラ色に染まって、その背中に微かに舌を這わせた。
「うっ・・・・」
激しい女の締め付けに男の口元から至高の溜息が漏れる。
「シン・・・・愛して・・・る。」
喘ぐ女の口元から言葉がほとばしる。
男の舌は女の背中からうなじに向かって掠る様に這って行き、そのうなじに留まると甘噛みをした。
「はうっ・・・・」
女の胸の突起は固くなり、男を更に締め上げる。
「チェギョン・・・・愛してる。」
男はそう言うと激しいリズムと共に女を突き上げていった。




「随分長かったじゃない。もう死にそうなくらい退屈で、貴方の顔を忘れる所だったわ。」
ぷいっとシンに背中を向けてスネる彼女の背中をシンはその指先でなぞった。
「死ぬ?お前が?」
可笑しそうに笑いながら彼女を抱き締める。
「そんなに僕のことを待っていてくれたなんて光栄だな・・・・僕が誰とどこで何をしていたか気にならないのか?」
「ふん。そんなの聞いたって仕様がないじゃない。私達お互いを束縛しないことにしているでしょ?・・・じゃないと・・・・・」
「ああ・・解っている。チェギョンは物分りがいいから僕としても助かるよ。」
シンは彼女の黒髪をすくうとその香りを嗅いだ。
「ああ・・・チェギョンの香りだ。この香りだけは僕のものにしておきたいな・・・」
「あら、シン。おかしいわね。私には物分りのよさを強要しておきながら、自分ではしっかり私を束縛するつもり?不公平だわ・・・・貴方ばっかりいい思いをしてきて・・・それはないんじゃない?」
ふふっと笑ってチェギョンはそっとシンの髪に手を滑らせた。

「国境を越えてある村に立ち寄った。素敵な女性だったな・・・・優しくて控えめで柔らかでいい香りがした。だけどチェギョンには敵わない・・・・・」
「まあまあ・・・・アリガト。褒め言葉としていただいておきますわ。」
チェギョンは横にいるシンの胸にキスをすると、シーツを絡ませベットから降りる。
「行くのか?」
シンは慌ててチェギョンの右手を掴んだ。
「ええ・・・・」
チェギョンはシンの手をそっと撫でる。
「僕はお前に行って欲しくない・・・な。」
「また始まった・・・シン、それは・・・ダ・メ・よ。」
やんわりとシンの手を外し、くすっと笑うとシーツをからませたままクローゼットに消えた。
「チェギョン・・・・」

彼女は、シンの体臭が纏わり付く躰にバラの香りの香水を振り掛け、髪を整える。そして、胸元の大きく開いた黒い夜会服で白い肌を包み、赤いルージュを引いた。
「今日は伯爵様のお屋敷よ。夜通しダンスですって。ここはこんなにも静かなのに・・・・・じゃ、行くわ。」
「チェギョン・・・・・」
「言ったでしょ、束縛しないでって。ついて来ちゃ駄目よ!」



表の門に待たせた馬車にチェギョンは乗り込んだ。
御者は黙って馬を駆らせる。街を出て林を抜け、小高い丘の上の、大きな屋敷の門の前にその馬車は停まった。
「ありがとう。夜明け前に迎えに来て・・・・」
御者は黙って頷くと再び今来た道を戻っていく。
霧の中、ぼーっと霞んだ松明の灯りがダンスホールまで続き、チェギョンはその灯りを頼りにホールまで急いだ。
賑やかな音楽が流れ、焼かれる肉の匂いと酒の匂い、香水や煙草の匂いが強烈に彼女を襲ってくる。
「皆さん、ごきげんよう・・・・・」
「これはこれは、公爵令嬢のチェギョン様。また今日は随分遅い到着でしたな・・・・」
「伯爵、今日はお招きいただいてありがとうございます。ソジュン様はどこかしら・・・・」
「ああ、我が息子をお探しか。あそこにおります。」
伯爵は側にいる執事に合図すると彼女に深々とお辞儀をし、ほかの客の方へ消えていった。


「チェギョン!今日は随分遅かったじゃないか!待っていたんだぞ。」
執事に呼ばれたソジュンは、彼女の姿を見つけると、人々を押し分けながら満面の笑みをたたえて走り寄ってきた。
「ね、ソジュン。何か飲み物を貰えるかしら・・・・急いで来たから喉乾いちゃったわ。」
「ああ、少し待っていてくれ。」
ソジュンは給仕に合図を送るとその給仕は何種類かの酒を運んできた。
彼女は赤ワインのグラスを取ると、ソジュンににっこり微笑んだ。
「ソジュン、どこかでゆっくり貴方と二人っきりで飲みたい・・・」
「ああ・・・・チェギョン、こっちにおいで。」
ソジュンは彼女の手を引きながら階段を昇っていく。

ソジュンが案内した部屋はホールからずっと離れた場所で、人々のざわめきもあまり聞こえない。
部屋の扉の前に来て胸ポケットから鍵束を出すと銀の鍵を掴んだ。
「これ綺麗だろ?屋敷の地下室から出てきた銀の剣で試しに作ってみたんだ。もう剣を必要とする時代は終わったからね。溶かして型にはめて・・・・ほら!」
ソジュンはその銀の鍵を彼女の目の前でかざした。

「ひっ!」

彼女は思わず胸に手を当てて座り込んだ。
「ど・・・どうした?チェギョン大丈夫か?」
「え・・・ええ。少し馬車に揺られたみたい・・・・大丈夫・・・よ。」
激しい動悸がチェギョンを執拗に襲う。呼吸を整えて立ち上がった。
鍵を挿し込みゆっくり回す。重苦しい音をたててその扉は開かれた。正面に大きな窓があって天蓋付きのベットが外の松明の灯りに反射してぼうっと浮かび上がっている。

「ね、この窓開けてもいいかしら・・・・」
チェギョンは窓に寄るとソジュンに尋ねた。
「ああ、いいけれど今日は霧が深い。湿気が酷いんじゃないか?」
「ううん。私、霧って好きなのよ。貴方と同じくらい・・・・・」
両開きの窓を押し開けて流れこむ湿った空気を思い切り吸い込む。
「チェギョン・・・今日は来てくれてありがとう。嬉しいよ・・・・随分遅かったから、もう僕は君に嫌われたと思っていた。この部屋、気に入ってくれたかい?」
ソジュンはチェギョンを後ろから抱きしめて、その青白い項にキスをした。
「ソジュン・・・・」
チェギョンはそのままソジュンを仰ぎ見てキスをその唇に返す。
「ベットへ行きましょ・・」


彼女はソジュンをベットに腰掛けさせると、持っていた赤ワインをクイッとその口に含んでソジュンの首に片手を回し、ゆっくり彼の口の中に少し温まったそれを流しこむ。
「ああ・・・チェギョン!」
チェギョンの手からワイングラスが落ち絨毯をローズ色に染め上げていく。
ソジュンはベットに彼女を押し倒し、夢中でその艶めかしい躰から黒い夜会服を剥ぎとっていった。
彼女はその透き通るような白い肌をソジュンに魅せながら、何気なく今開け放った窓を見た。

あっ!・・・・・・・

ソジュンはチェギョンの白い肌を見つめながら、自分にまとわりつく衣服を脱ぎ捨てていく。最後にブーツを脱ぐと彼女の脇に佇んだ。
「今日は君の全てを僕のものにしていいんだな、チェギョン・・・・」
窓の方を凝視していた彼女は、ハッと我に返ってソジュンを見上げた。
「ええ・・・いいわ。」
ベットに横たわった彼女の上に荒々しく覆いかぶさるソジュン。

≪ヒュッ!!≫

何かが空を切って飛んだ。
「痛・・・・」
「どうしたの?ソジュン・・・・」
「何かが背中を掠めていったような気がしたんだが、すこし背中が痛い・・・・」
「見せて・・・・」
彼女は起き上がるとソジュンの背中を見た。彼の背中には10センチほどの浅い切り傷があり、その傷口から赤い血が滲み出ている。そっと唇を寄せ、優しくその傷を舐め上げる。
そして窓を見て睨みつけた。
「大丈夫よ・・・・ソジュン。」
再びソジュンは彼女の躰を抱きしめると、柔らかな胸元に其の顔を埋めた。乳房にその唇で触れた後、額や頬にキスの雨を降らしていく。
彼女もソジュンの額や頬にキスを落とし彼自身を握り締めながら、首筋まで赤いルージュの唇を這わせて・・・・止まった。
ソジュンの喉元でゴクリと唾を呑み込む音がする。

その刹那・・・・・・

彼の躰は硬直し、全身が透き通るように真っ白になり、やがて力なくベットから落ちた。
チェギョンは何事も無かったかのように起き上がると真っ白いシーツを裸の躰に絡め、汚れた口元をそのシーツで拭う。


「そこにいるのは判っているわ、シン。ここへ来なさいよ。」
「・・・・」
真っ黒なマントを身に纏ったシンが窓から音もなく降り立った。
「呆れた人ね・・・来ないでって言ったのに!」
「嫌なんだ!・・・・・・君の躰を他の男に弄ばれるのは・・・・・
仕方のない事だとは解ってはいても・・・・どうしても・・・・・・・許せないっ!!!」
膝まずくシンを前に、絡めたシーツを外すと、裸のチェギョンはシンの頭を抱いた。
シンは彼女の細腰をしっかりと掴んで秘密の場所に唇を寄せる。

「バカね。人間に嫉妬したって、どうしようもないのに・・・・・もう長居は無用だわ。行きましょ。」

くすっと笑ったチェギョンはシンのマントの中にすっぽりとその身を隠し、シンはその柔らかな裸の躰を強くその手に抱くと、窓から霧の中へ飛び立つ。
大きな黒い影が伯爵邸の上を旋回してやがて霧を斬り裂き、街の方へ消えていった。
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Author:hana
韓国ドラマ【宮】をベースにした妄想話を綴っています。王道ありパラレルあり、風の吹くまま気の向くまま…

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