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イニシエノコイ 其の壱

【ガチャッ・・・・・・】

「あっ・・・・開いた。」

両開きの扉をゆっくりと開ける。
少しずつ、少しずつ・・・・
軋んだ音がした。
「もう一枚ある・・・・」
鍵のかかってない格子の扉をそっと押し開ける。
柔らかい光が差し込んだ部屋は静寂に充ち溢れ、その光を浴びて何かが奥のほうで光った・・・・
「うわぁ・・・・・」
あまりの美しさに息を呑んだ。
そこには黄金に輝く花嫁衣裳が飾られていた。






『両班』・・・という身分、今の時代とうに忘れ去られた身分制度。それが、何代にも渡って受け継がれてきたシン家、それが私の家だ。
今でこそ金策に走る我が家だけれど、聞く所によると、ずっと昔はシン家から何人も妃を輩出したほどの家柄だったらしい・・・・・パパが言うにはね。

その名残がこの土地と建物。

あ、土地は殆ど売ってしまって、あとはこの屋敷がある場所だけなんだ。にしても、この屋敷一体幾つの部屋があるんだか・・・・数えたことはないの。
今は、この建物の手入れをするにもたくさんのお金がかかってしまって大変だから、パパにこんな所売り払ってマンションにでも移り住もうって言ってるのに、『ご先祖様からいただいた物だから大事にしないといけない』と拒否。
今から話すお話は、そんなシン家に昔からある『開かずの間』の話。
パパやママもこの部屋だけは近寄らないし、私も今までここに来るなんて思ってもみなかった。




「パパ、早く部屋に風をいれて!」
「ママ、そう言ってもこの部屋数だ、大変なんだぞ!」

シン家の一大イベントである『古い家屋の風通し』が始まった。
毎年この時期になると、天気の良いカラッと晴れた日を選んで全ての部屋を明け放ち風通しをする。殆ど使っていない部屋ばかりでカビ臭くなっている部屋がたくさんあった。

「チェギョン、アンタは奥の建物から開けてきて!」
「OK 」

チェギョンは母のスンレから鍵束を受け取ると一つ一つ丁寧に奥の部屋から開けてきた。
ふと、ひとつの部屋の前に立ち止まる。幾重にも鎖で巻かれたその鍵はかなり錆びていて一度も開けられていないのを物語っていた。

「この部屋、開かずの間だったわね・・・・・」

去年までだったら通り越していた。
なのに、今年は何故か気になる。
「鍵・・・・あったかしら。」
たくさんある鍵束から一番古そうなものを幾つか選ぶとそっと鍵穴に差し込んだ。

【ガチャッ・・・】

「あっ・・・開いた!凄い、なんか開かずの間を覗くなんてドキドキする。」
チェギョンは注意深く扉を開いていく。

「ぶあっ・・・ぺっぺっ・・・凄い埃だぁ!!」

自分の頭に降ってくる埃に慌てて手をかざした。
「もう一枚ある・・・」

格子の扉を押し開くと何とも言えない芳しい甘い香りと共に目の中に飛び込んできた光景にチェギョンは暫くの間言葉を無くして佇んだ。

素晴らしい螺鈿を施したチェストやタンス、テーブル、飾り棚・・・・

「コレって嫁入り道具?」
チェギョンはチェストにそっと手を触れた。

「これって今買ったらいくらするんだろう・・・」
開かれた扉から差し込む光を浴びてキラリと光るものがある。

「うわぁぁああああ!」

思わずチェギョンは声をあげた。
見事な金箔を施した花嫁衣裳が飾られている。
チェギョンはそっと触れてみる。金箔がハラハラと舞落ちた。
ふとその下を見ると、やはり見事な螺鈿が施された衣装箱が置いてありその端に見事な刺繍の布切れがはみ出たまま蓋が閉じられていた。

チェギョンはそっとその蓋をあけると目眩いがするくらいの香りが漂った。
「ここから香ったんだわ。凄い香り・・・・・なんだろう。」

そっとその布切れを取り出して慎重に広げていった。
「えっ?これって花嫁衣裳?二つも?・・・・」

チェギョンは金箔と刺繍の花嫁衣裳を交互に見比べた。
刺繍の入った衣装をさらに用心深く全部広げてみると、胸にあたる所から裾まで茶色の錆のようなシミが広がっている。触るとサラサラと零れおちた。


「これって・・・・血?」
チェギョンはその衣装を前にして座り込んだ。








『王妃様、やはりユル皇子様の身辺に不穏な動きが見られます。シン太子様をもしや排斥する画策があるやもしれません!』
コ将軍が王妃に進言した。

『そうか・・・ユルめ、第二皇子のくせに太子の座を狙うとは許しておけぬ。コ将軍、どんな手を使っても構わぬ、必ずや皇子を排除せよ。それからまた側室を迎えたというではないか。太子は正妃はおろか側室さえ持たないというのに・・・・なぜ、太子はいつまでも正妃を決めぬのだ・・・・先日王族のミン・ヒョリンを推挙したというのに・・・・どうなっておる!!』
王妃はイライラしながら膝をたたいた。


その頃シンはユルの殿閣に向かっていた。
側室として召し上げられたチェギョンをユルに諦めてもらうために・・・・
『これはこれは、兄上。如何なされました?』
後ろから声をかけられ思わずシンは振り向いた。

『ユル・・・・』
『なんでしょう・・・兄上。』

『お前に頼みがある。』
シンはユルの瞳をじっと見た。
『可笑しいですね、何でも望みが叶う太子の兄上にこの私が頼みごとをされるなんて・・・・』
少し冷やかした口調で言う。

『今度お前が召し上げた側室だが・・・・』
『は?兄上、どの側室でしょう・・・・最近何名か召し上げましたが。』
『シン・チェギョンだ。』
『シン・チェギョン?・・・・・なぜ彼女を?』

『彼女との婚姻を反故にして欲しい。』

『なぜです?』
ユルは表情を固くした。

絶対にだめだ。
彼女は今までの側室の中で一番私が気に入った娘。
あの屈託のない明るさと自分を決して売り込んだりしない謙虚さ、何よりもこの私が初めて愛せるかもしれないと思った女性だ。
正妃がいなければ、もし彼女が王族だったなら、私の正妃にしただろう・・・・
例え兄が欲したとしても譲るわけにはいかない。


『私は・・・・・シン・チェギョンを愛している。正妃として迎えたい。』


(なんだって?!)

ユルは暫く沈黙した後高笑いした。

『兄上、彼女と知り合いだったのですか。ならなぜ私の側室として決まる前に自分の側室として召し上げなかったのです?彼女を知っているならその身分はご承知のはず。シン・チェギョンの身分は両班ですよ。正妃には出来ないのは兄上も分かっていますよね。未来の王妃が両班の出では、他の王族の手前示しが付かない。それはこれまでの歴史が物語っているではありませんか。しきたりでは太子の正妃は王族からとなっている。兄上はそのしきたりをお忘れか?』

『・・・・知っている。』
シンは苦しそうな表情で答えた。

『兄上、申し訳ないが今の話なかった事に。私は彼女を手放す気はさらさらないので・・・・』
ユルはシンをその場に残し、殿閣に入っていった。

『ユル・・・・・』

ユルとチェギョンの婚礼まであと3日。






『まあ、チェギョン様、良い香りですこと・・・・・』

お付きの女官が息を大きく吸ってその香りにうっとりしている。
チェギョンは香炉を焚きながら微笑んだ。

『こうして香りを衣装に移すのよ。』
『なんと言う香りでございますか?』
女官がチェギョンの手元を覗き込みながら訊いた。

『伽羅というの。同じ伽羅でもそれぞれ微妙に香りが違うのよ。これは、一番甘い爽やかな香り。若い女性向きね。』

太子様に抱きしめられた時、この香りを褒められた。
思わず自分の首筋に手を触れる。
他の者には見えない場所にある薄桃色の色あせてきた太子様の印。

この印が消えないうちに迎え来るとおっしゃった・・・・・
でも・・・・
無理ね。
ユル皇子様には莫大な援助をしていただいた。これで実家の名誉は守れるはず。

『シン・チェギョン、素敵な夢を見たと思いなさい。』

『なんの夢だ?』

その声に女官は慌てて退室する。
『ユル皇子様・・・・・』
ユルが微笑んで入ってくる。
『楽しそうだな、これからお前の顔を毎日見られると思うと嬉しいよ』
『はい。』

ユル皇子様は入宮してからというもの頻繁にこの部屋に訪れては優しい言葉をいくつもかけてくれる。
優しい方なんだ・・・・
たくさんの側室はいらっしゃるけれど分け隔てなく愛してくださっていると聞いた。
太子様とは所詮、夢のまた夢。
王族でない私が太子様の正妃になれるわけがない。
諦めなければ・・・・・・
諦めよう・・・・・・

『チェギョン、お前以前側室になることを断りに来たことがあったな、もしかして誰か将来を誓った男でもいたのか?』
『・・・・いいえ。』
チェギョンは慌てて俯く。

『そうか、まあいい・・・・婚礼まであと2日だけどまさか逃げたりしないな?』
『・・・・・』
『冗談だよ。実家の事もあるし、そんなマネ出来るわけがない・・・・だろ?』
『・・・・・』

彼女を正妃にしようなどと兄の独り相撲だと思いたいが、彼女はどう思っているのか。
自分の側室になったとしても、心が兄の所にあるとしたならば許せない。
『チェギョン、兄には会ったことがあるか?』
『・・・・・』
『今度是非引きあわせてあげよう・・』

『ユル様、結構です。側室に上がる身の私が太子様に会ってどうなりましょう・・・』
涙が出そうになって、チェギョンは逃げるように立ち上がると香炉の具合を見るような振りをしてそっと目元を拭った。

やはりな・・・・・
兄上にはますます渡せない。

『では、婚礼を楽しみにしているよ、チェギョン。』
ユルはそういうと彼女を引き寄せ優しく頬に接吻をすると、笑いながら部屋を後にした。

ユルとチェギョンの婚礼まであと2日。
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Author:hana
韓国ドラマ【宮】をベースにした妄想話を綴っています。王道ありパラレルあり、風の吹くまま気の向くまま…

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