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シンの心、チェギョンの心 (第3回PHD自主参加作品)

『パボ!』
『オタンチン!』
『アッカンベー!』
『大っ嫌い!』

何回この言葉を言っただろう。勿論この言葉を投げつける相手は・・・・








「妃宮様!お時間をとっくに過ぎております。お急ぎください!」
「えっ?・・う、嘘っ!シン君は?」
「とうに正殿へ向かわれました。」
「あちゃー!」

ベットから飛び降りるとチェギョンは大急ぎで支度をして正殿に向かうシンを追った。回廊を曲がると正殿への扉をくぐる彼の後ろ姿が見える。

「シン君!待って、待ってよう!」

チェギョンの大声にしばしシンはその歩みを緩めた。ゆっくり歩くシンの傍に辿りついたチェギョンの息は荒く、思わずシンの腕にすがりついた。

「ま、ま、待ってって、い、言ってる、じゃ、ない、たまには、いっしょに、」
「いつもの事だろ?お前が寝坊するからいけないんじゃないか。僕は昔からの習慣を変える気はないから、そのつもりで。時間が来たら正殿へ朝の挨拶に行く。ただそれだけだ。」
「陛下だって揃って挨拶に言った方が喜ばれると思うわ、だから。」
「だから、遅れてもいいっていうのか?」
「そんな・・・違うって。」
「少し遅れ気味だ。急ぐぞ。」

シンはその長い脚を思いっきり開いてどんどん先へ歩いて行ってしまう。

「意地悪ね、そんなふうに言うことないじゃない。別に好きで寝坊したわけじゃないし。」

チェギョンは正殿への回廊を走りだした。





「ふう・・もう秋ね。馬に乗ってお庭の散策も気持ちいいかも・・・ね、シン君。」
「駄目だ。」
「えっ?」
「馬が可哀そうだ。下手な手綱さばきじゃ馬が疲れる。」
「もう・・・また!じゃいいわよ。歩って散歩するから。」
「一人では出歩くなよ。内人達がお前をさがして苦労するからな。」
「な!」
「それに、しきたりはきちんと守ってくれよ。一応お前は尚宮達の上に立つ身なんだ。妃宮が問題ばかり起こしていては僕の立場も無くなるからな。」
「解っていますよ!はいはい、シン君はいつも偉いです。私はパボでおっちょこちょいで・・」
「解っているじゃないか。」
「ふ、ふん!」

正殿の帰りはいつもこんな調子で、パビリオンで別れる二人。チェギョンは相変わらず豆腐人形にパンチを繰り出し、そんなチェギョンをパビリオンからシンが見つめているなんて彼女は全く知る由もなかった。







ある秋晴れの午後、チェギョンは景福宮の北側にある厩舎の前に来ていた。厩務員のパクが1頭の馬をかいがいしく世話をしている。

「パクさん、今日もいい天気ね。」
「これはこれは妃宮様、天が高くなって本当に最高の日よりでございますね。」
「ね、乗っていいかしら。」
「今日は・・・申し訳ございません。只今、ソン先生は殿下と出ております。先生がお戻りになってからにして下さいませ。殿下にも絶対一人では乗せるなと言われております。」
「もう!またシン君が?」
「申し訳ございません。」

チェギョンはしぶしぶパクの傍に寄ると人参を手にして馬の口元に持って行く。チェギョンから人参を貰った馬はパクリと大きな口で噛みついた。

「ね、パクさん。此処で餌をあげてていいかしら。」
「はい。ただあまりやりすぎないでください。」
「ええ、わかったわ。パクさんはお仕事続けてください。」
「では・・・」

チェギョンはパクが事務所に向かうのを確かめると、手綱を引いて厩舎から馬を連れ出した。いつものように台の傍で馬を止め、自分は台に上って馬の背に乗る。

「ね、こんなに気持ちがいいんだもの、お前だって狭い厩舎の中に居たくないわよね。大丈夫よ。いつもようにゆっくり歩きましょ。」

チェギョンは軽く手綱を引くと、いつもの散歩道を進んだ。






「ではこのへんで・・・殿下、障害物もだいぶ上手く越えられるようになりましたな。」
「いや、ソン先生のお陰です。もうお帰りになるのですか?」
「はい、申し訳ございません。これから用事がありますので。」
「では、僕はもう少し足慣らしをしてから厩舎へ戻ります。」

馬場から厩舎へ続く小道をシンはゆっくりと歩き出した。景福宮のもみじはほんのりと色づき始め、チェギョンの言うとおり散策するには絶好の日よりだ。

「チェギョンを今度連れて来るか・・・」
シンは手に届きそうなもみじの葉にそっと触れた。






「そろそろ戻らないと怒られちゃうな。ね、帰りましょうか。」
チェギョンが馬の首をそっと撫ぜた時だった。一匹の蛇が馬の足元を掠めていく。驚いた馬は大きく嘶き、狂ったように駆けだした。

「きゃっ!な、なんなの!?と、止まって!ねえ!止まりなさい!」
手綱を懸命に引いても馬の暴走は止まらない。

「誰か!誰か止めてぇ!た、助けて!!」

暴走する馬の背に必死になってすがりつくチェギョン。馬の異変に気付いた衛兵達が、馬上にチェギョンを確認すると、慌てて一斉に走り出したが間に合わない。馬の前に立ち塞がろうとしても暴走する馬は止められなかった。景福宮の西側の木立の中を何処までも何処までも狂ったように駆けていく。時折低い枝がチェギョンの頭を掠め、後ろへ飛んで行った。

「シ・・シン君、助けて・・・助けてよぉ・・・・」
ギュッと目を瞑って必死に手綱と鞍にしがみつき何度もシンの名を呼んでみる。

「シン君!助けてっ!!」

馬から振り落とされそうになり、チェギョンは悲鳴を上げた。大きな馬の嘶きが聴こえ、体が宙に浮く。

「手綱を放せっ!!チェギョン!!」

チェギョンの腰を誰かが掴んで引き寄せた。そのまま空を切って落ちていく。ザザザっという音と共に誰かに抱きかかえられて草むらの中に転がった。

「殿下ぁ!!!妃宮様ぁ!!!」

衛兵達の叫び声が木霊する。いつしかチェギョンの意識はどんどん遠のいていった。








あれ?ここ、どこだろ?
なんだか体が動かないな。
どうしたんだろ私・・・



「妃宮。気がつきましたか?」
「・・・皇太后・・・様?」
「ああよかった!チェ尚宮。妃宮はもう大丈夫です。」

うっすらと目を開けたチェギョンの周りには、心配そうな顔をした皇太后と皇后、チェ尚宮が立ってほっとした顔をしている。

「私・・・」
「妃宮。貴方は馬から落ちたのです。覚えていますか?」
「皇太后様・・・私、馬から落ちた・・のですか?」
「良かった、良かった、お顔にも傷は無いし、骨折もしていないとのこと。多少の打ち身はありますが、やはり若さですね。」
「あ・・あの・・私・・・」
「シンが貴方を抱えて馬から飛び降りたんです。あの子がこんな事出来るなんて、見直しました。」
「シ・・シン君・・・が・・・・・」
「では、私達はこれでお暇しましょうか。シンが心配で来ているみたいだし。」

皇太后はそう笑うと皇后とチェ尚宮を引きつれてチェギョンの寝室を後にした。



「だから言っただろう?このパボ妃宮。」

シンがチェギョンの寝室へ入って来た。右手には包帯が巻かれて首から三角巾で吊ってある。

「シ、シン君!怪我・・した・・の?」
「ヒビが入ったようだ。お前もっと体重落とせよ。凄く重かったんだからな!ま、ブタの妃宮を抱いて落ちたけどこれくらいの怪我ですんでよかったさ。もしかしたら打ちどころが悪くて死んでいたかも・・まったくどうしようもない奴だよ!」
「・・・・・」
「なんだ?いつもの反撃がないな。どうした?」

ベットに寝たままのチェギョンは両手で顔を覆った。

「ごめん・・・ごめんね・・・・ごめん。」
「なんだよ、気持ち悪いな。いつものつっ返しは言わないのか?」
「・・・私、いつもシン君が意地悪しているんだと思ってた。だけど・・・」
「だけど?」
「・・・私馬鹿だったわ。シン君の言うとおりにしていれば、シン君に怪我なんてさせないで済んだのに・・・ごめん・・・ごめんなさい・・・」

涙声になったチェギョン。顔を覆っている彼女の右手をシンは掴んで引きはがした。

「パボ妃宮。僕に謝るより厩務員のパクに謝った方がいい。彼はクビを覚悟でこの東宮殿の前でお前が気がつくのをひたすら待っていたんだぞ。」
「あ・・・」
「いいか?お前の体はお前だけのものじゃないんだ。此処は基本的に自由はない。だけど、自由に出来るように努力はしていくつもりだ。僕の言う事がわかるか?」
「うん・・・」
「これからも、たくさんお前には意地悪するぞ。」
「うん・・・」
「つっ返しを言ったって僕の姿勢は変わらないからな。」
「うん・・・」
「じゃ」
「えっ?」

シンはチェギョンのベットの端に腰を降ろすと左手で彼女の頬を愛おしそうに撫ぜた。そのまま彼女の唇にゆっくりと親指で触れると顔を近づけて耳元で囁いた。


「覚悟しろよ。右手が治ったらもっと意地悪するからな。」
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Author:hana
韓国ドラマ【宮】をベースにした妄想話を綴っています。王道ありパラレルあり、風の吹くまま気の向くまま…

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