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豆腐人形 (第2回PHD自主参加作品)

『もしもし、シン。なぁお前達夏休みってあるのか?』
「ギョンか。なんだよ藪から棒に。」
『あのさ、今年の春、泰安に別荘をウチの親父が建てたんだ。夏休みに使ってもいいって言うからどうかなと思って。』
「ああ、海岸国立公園の近くか?」
『そうなんだ。どうだ?休み取れそうか?』
「考えておくよ。」


「夏休み、か。」
シンはギョンからの電話を切って呟いた。
思い起こせば大学が休みに入ってからと言うもの、息もつけないほど毎日のように公務に借り出されていた。慣れている自分はいつもの事だが、チェギョンは違う。もうそろそろ限界だろう。
そっとパビリオンの向こう側にある妃宮の寝室をカーテン越しに覗いた。





「ね、こんなに大変だとは思わなかったのよ。そりゃ、皇室に入ったからには公務はつきものだとは思っていたわ。だけど、毎日晩餐会やお食事会があって帰って寝るのは12時過ぎだもの。シンデレラの時間だってとっくに過ぎているわよ。」

チェギョンはベットの上で豆腐人形を抱きながら大きな溜息をついた。

「ね、シン君。貴方は慣れているだろうけれど、庶民上がりの私には少しキツイわ。そうでしょ?」

人形の顔をパコっと殴った。そしてギュっと抱きしめるとそのままベットに倒れ込む。目を閉じると睡魔が襲ってきてそのまま眠りこみそうになる。

「妃宮様!そのまま眠られてはいけません。ご入浴なさってから。」
「ああん、チェ尚宮。もう私蕩けそうに眠いの、このまま寝させて。」
「では、殿下からのお事づけは明日に致しましょうか?夏休みについてのお言付けなのですが。」
「へっ?な、な、夏休みっ!?」
「来週の月曜日から、二泊三日でお出掛けにならないかと。」
「えーっ!ほ、ホント?チェ尚宮おねえさん!」
「はい。」

チェギョンは豆腐人形を抱いたまま、裸足でパビリオンを駆け抜けシンの寝室に飛び込んだ。

「シン君!行きたい!ぜーったい行きたいです。お願いします、ご一緒させて下さい!」

ベットの上で本を読んでいたシンは、先に飛んできた豆腐人形を相変わらずのタイミングでかわすと、くすっと笑った。

「いや、無理しなくてもいいんだぞ、妃宮。チェ尚宮によるといつも疲れて入浴もせず眠ってしまうんだって?折角だから此処でゆっくりしてもいいんだ。」
「もうっ!そんな事言わないでね、ね、いいでしょ?」

バタバタとシンのベットによじ登ると、チェギョンはシンの本を取り下げて零れるような瞳で覗き込んだ。

「あ、ま、まぁ、いい・・か。ギョンも連れて来いって言っていたからな。」
「う、う、う、うわぁ!!ありがとうシン君!ありがとう!」

シンのブランケットをバスバス叩くと、小躍りしながら寝室に戻って行くチェギョン。

「おいっ!豆腐人形・・ったく。あれで皇太子妃か。なぁ、お前は毎日大変だな。」

シンは豆腐人形のお腹をボムっと拳で殴ると笑った。





オープンカーのハンドルを握るチェギョンは助手席にガンヒョン、後部座席にヒスン、スニョンを乗せて猛スピードで木立の中を走り抜けていく。

「もし事故ったら明日の朝刊に載るわよ。妃宮、乱暴運転の果てに・・・って」

ヒスンが吐きそうな顔で笑った。そして後ろに押し込まれている大きな荷物を指した。

「ねぇ、この人形なんなの?これだけで凄い荷物じゃない。」
「ああ、それね。豆腐人形なの。いつも一緒なのよ。」
「ふーん。」





「じゃ、部屋は其々個室になっているから。あとシン達は一緒の部屋でいいよな?」
ギョンの言葉にシンとチェギョンは驚いて顔を見合わせた。

「ギョ、ギョン君!別々にしてっ!」
チェギョンが大声で叫んだ。

「なんでだよ・・・お前達夫婦じゃないか。俺達これでも気を使って」
「い、いいですっ!気をつかわなくてもっ!」

ギョンは頭をふりふり溜息をついた。

部屋の鍵を渡し終えたギョンはそっとシンの傍に寄った。

「おい、シン。お前達ってもしかしてまだ?」
「ああ、察しのとおりさ。」
「嘘だろ?お前達結婚しているんだよな!」
「・・・・」
「ま、人生いろいろあるさ。」
「人生・・・ね。」
「それと別荘の周りは全てウチの警備会社で固めてあるから安心しろ。なにしろ、皇太子ご夫妻のお忍びの夏休みだからな。マスコミも全てシャットアウトした。」
「サンキュー、恩にきるよ、ギョン。」
「そういうな・・ってすべて親父の采配だけどな・・・それはそうと今夜は肝試しするぞ。月が今夜は出ないからな。」
「肝試しって、おい」
「夏合宿の定番だろ?」
「夏合宿って、ギョン!おい!」

笑いながら部屋へ行くギョンの後ろ姿を見てシンは諦めて微笑んだ。





「では、今夜8時、恒例の肝試し大会を行いまーす!」
夕食後のテーブルでギョンは立ち上がるとにこにこ顔で宣言した。

「ちょっと、ギョン!恒例・・ってなによ、初めて聞いたわ。そんな企画!」
ガンヒョンは腕組みをしながら軽くギョンを睨んだ。

「ナンセンスよ!馬鹿らしい。体育会系の合宿じゃない。」
「シンも賛成してくれたんだぜ。ガンヒョン。殿下がやるって言ったんだ。意義のある人は?」

ギョンの暴走を止めようとしたシンであったが、ヒスンやスニョン、イン達がいいんじゃないかと言いだし、結局行う事に決定した。

「ね、チェギョン。アンタ大丈夫?暗い所苦が手だったわよね。」
「う、うん・・・」
「一人で行くそうよ。全くギョンたら何を考えているのかしら・・・」

ガンヒョンは真っ青になっているチェギョンを気の毒そうに見つめた。





夜8時。それぞれが懐中電灯のみ持って海岸に集まる。

「では、ルールを説明する。此処からあの林を抜けてこの貝殻をストーブ用の薪が置いてある小屋に置いて此処へ戻って来る事。」
「それだけか?ギョン。」

ファンがデジカメを持ったままギョンに尋ねた。

「ああ・・そうだ。」
「簡単だな。」
「そうさ、だたし一人だ。では最初は男性陣から・・・10分の間隔を置いて出発するように。道は一本道だ。追い抜かれる事はあってもすれ違う事はない。」

最初にギョン、イン、ファン、シンの順で出発し、20分後には其々戻ってきた。

「おい、チェギョン。お前大丈夫か?」
「シ、シン君、だ、駄目だったら助けに来てくれる?
「さぁな。」
「い、意地悪・・・」

砂浜に足を取られながらゆっくりと懐中電灯で足元を照らし、進んで行く。林の入り口に立ってチェギョンは躊躇した。

「ま、真っ暗じゃないっ!ガンヒョン達ここを行ったの?」

勇気を振り絞ってチェギョンは恐る恐る林の中へ入っていく。道端で一斉に鳴く夏虫達。
月が無いのでいくら瞳を大きく開いても真っ暗だ。頼りになるのは手元にあるこの蒼白い光りだけ。

ホホウ・・・とフクロウの鳴く声にチェギョンは一瞬背中を縮めた。

「だ、大丈夫よ。ギョン君の警備会社の人達がこの敷地を厳重に守っているって言うし、何も出て来やしないんだからっ!」

右手に握りしめた貝殻が汗にまみれてくる。
懐中電灯を正面に当てて小屋が見えるとチェギョンはホッとしてその場に佇んだ。

「良かった・・・折り返し点だわ。何もなかったし後は帰るだけね。」

小屋の扉を開けて、貝殻をテーブルの上に置くとチェギョンは小屋を出ようとして振り返った。

「えっ?うそ・・・・私・・・扉を開けたまま入ってきたのに・・・どうして、閉まっている・・・の?」

慌てて小屋の扉に手を掛けて、一所懸命押してみる。扉はビクともしない。

「や、やだっ!」

ノブを必死で回しドアを叩いた。
ヒヤっとした感触がチェギョンの右頬を撫でていく。その感触が今度は反対側の頬をも撫でていき、チェギョンはあまりの恐ろしさでそのまま立ち尽くしてしまった。

(た、助け・・・助けを呼ばなくちゃ・・・)

必死にそう思っても口が思うように動かない。今度は足元を冷たい何かが撫でていった。

(た、助けて・・・助けてシン君、助けて・・・・)

目をギュッと瞑ったままチェギョンは懸命に心で念じた。

≪チェギョン・・・・大丈夫だから、そのまま目を瞑っていて・・・≫

(シン君!)

≪そうだ。目を開けるなよ。≫

(うん・・・)

ふわっと自分の体が宙に浮いた。チェギョンはシンの首にしがみつき目をギュっと瞑っている。
小屋を出て林の中をシンはチェギョンを抱いたまま走っているようだった。夏虫の鳴き声が再び彼女の耳に届く。

≪もう、ここで大丈夫だ、後はゆっくり行けよ≫

いつの間にかチェギョンは林の出口に立っていた。波打ち際では、なかなか戻ってこない彼女を案じてガンヒョン達がギョンを責めている。

「あっ!チェギョンが帰って来たわ!」

スニョンの声に全員が林の出口に立っているチェギョンを見た。

「チェギョーン!」

ガンヒョンがチェギョンの元に走り込み、パフッと抱きしめる。

「心配したのよ。いつまでたっても戻って来ないんだもの。途中で動けなくなったの?」
「うん、小屋から出られなくなって、そしたらシン君が来てくれたの。」
「・・・殿下・・が?」
「うん」

チェギョンの傍にシンがやって来た。

「途中で泣いていたんだろ?チェギョン。」
「え?シン君・・・だって、助けに来てくれたんじゃ」
「俺が?俺はずっと砂浜にいたぞ。」

シンは不審そうにチェギョンを見下ろした。

「嘘、だって小屋から出られなくなった私をシン君が抱いて」

チェギョンの消え入りそうな言葉の端を掴んだギョンは素っ頓狂な声を上げた。

「チェギョン、薪小屋はただの屋根だけの小屋だぞ。小屋から出られなくなったってどういう事だよ。」


「・・・」


ギョンの言葉に全員は鎮まり返った。

「か、帰ろう・ね、帰りましょう。」
「そ、そうだな、帰ろう。おい、ギョン。今夜一緒の部屋で寝ていいか?」
「お、おれも」

インとファンがギョンへ声を掛ける。

「ガ、ガンヒョン、私達も一緒の部屋でいいかしら・・・・」
「そ、そうね。」

バタバタと砂浜を駆け上がり6人はシンとチェギョンを砂浜に置いて行ってしまった。

「おい」
「な、なに?」
「誰・・・なんだ?お前を抱き上げたヤツ」
「シン君・・でしょ?声だっ・てシン・君だ・ったわ・・」

震えるチェギョン。

「と、とにかく戻ろう。部屋どうする?一人で寝るか?」
「やだっ!シン君、お願い一緒に・・・」
「襲うかも」
「いい、襲っても。怖いよりはマシ!」
「・・・」

シンの手をギュッと握って心細そうに彼を見上げるチェギョン。シンはチェギョンの手を軽く握り返して砂浜を歩きだした。


怖いより、マシ・・か。


自分の部屋からブランケットを引き摺ってきたチェギョンは、シンのダブルベットに潜り込む。


果たして。

シンの男としての心配をよそに軽く寝息を立てるチェギョン。

「はぁ、全く。これじゃ襲う気にもなれない」

口を開いて幸せそうに眠るチェギョンの顔を見てシンは声もなく笑うと、額の髪を掻きあげてゆっくり口付けを落としていった。





さて、チェギョンを助けたのは誰だったのか。

後にファンが撮影していたデジカメには、林の出口に立つチェギョンが撮影されていた。そして彼女のすぐ後ろに薄れ行く白い四角い物体。果たしてその正体は・・・
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Author:hana
韓国ドラマ【宮】をベースにした妄想話を綴っています。王道ありパラレルあり、風の吹くまま気の向くまま…

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